冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
それならば、と司は思い直し、

「分かりました。では、これは手切れ金と言う事にしましょうか。この書類に署名と印をお願いします。」

莉子から結納はしないで欲しいと手紙に書かれていた。彼女の為なら財も時間も惜しくは無いが、希望は叶えたい。

だけど、ちゃんと切っておかなければ後から何を言われるか分からない。

だから、この金は手切れ金と言う名に変わった。

「金輪際、彼女には会わない、近寄らないと約束をして頂ければ、この手切金は置いていきます。どうしますか?」

元より交渉事には長けている。
既に八割こちらの手の内に落ちたと思い、司は有無を言わさず念書に署名と印を貰う。

それから、事務的に莉子からの手紙と手切れ金を無言で机の上に置く。
そして、最高に莉子が始めて会った時着ていた服を差し出した。

「これは、莉子殿が借りた服だと言っていましたのでお返しします。」

それだけ伝え、これで全て終わったと司はスッと立ち上がる。

もう、こんな場所には1秒だって居たくない。早く莉子の元へ帰りたい。

それなのに…
大きなドアからノックが聞こえ、煌びやかなドレスを着た女が部屋に入って来た。

「初めまして、東雲紀香と申します。
妹様の件につきましては、大変申し訳け無く思っております。」
静々と頭を下げて来る紀香に、今更…と。司は疑心感しか無い。
冷めた目で見下しながら、足も止めずに廊下に足を向ける。

「あの事故の事ですが、不注意でぶつかっただけで…もしかしたら怪我をしたのは私だったかもしれないのです。」

自分に非は無いと涙ながらに訴えて来るその姿に、司は虫唾が走るのを感じる。込み上げてくる怒りを奥歯で噛み締める。

麻里子から聞いた話しとはまるで違う。

階段を落ちる時…確かに聞いた高笑いを麻里子は忘れないと言っていた。妹が嘘を着く筈がない。

「もう今更、言い逃れは遅過ぎます。
私は貴方に関しては怒りしか無い。それに…莉子殿を自身の身代わりとして送って来た事、それ自体が貴女自身に非があった事を認めたと捉えている。

金輪際、我々の前には現れないで頂きたい。非常に不愉快だ。
それでは、これで失礼します。」

紀香の事は目にもくれず司は部屋を後にする。

はぁーもう疲れた…。
早く帰って莉子の顔を見たい。
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