冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
疲れを引き摺りながら、司はやっと自宅に着いた。

車を降りると、出迎えの女中達と共に莉子の姿を見つけ、やっと気持ちがフラットになる。

心配そうな眼差しは、きっとずっと司の事を気にかけて、待っていたのだろうと容易に分かる。

顔色が良くない…
夕飯はちゃんと食べたのだろうか?
そう思うと気が気じゃなくて…。

司は大股で莉子に近付き、

「ただいま。体調がすぐれないのでは無いのか?夕飯は食べたのか?」
と声をかける。

「お帰りなさいませ。私は特に問題ございません。
…夕飯はまだですが…司様をお待ちしておりました。」
心配そうな顔で見上げてくる莉子に庇護欲をかき立てられる。

「そうか…わざわざ待っていてくれたのか…直ぐに夕飯にしよう。」
そう言って、司は莉子の手を取り歩き出す。

周りにいる女中の驚く眼差しに気付く事なく…
司にはもはや莉子しか見えていない。

「あ、あの…司様、お着替えをお先に…しないのでしか?」

急に司に手を引かれ、大股で歩く司の後を莉子は若干引っ張られながら、いそいそと早足で着いて行く。

どこに向かっているのか分からず、少しの不安を覚える。東雲家で何か良く無い事が起きたのだろうかと、心が揺れる。

「2人きりになれる場所へ行くだけだ。」
司の言葉にぎゅっと莉子は緊張し、バクバクと心拍が暴れ出す。

東雲家で何か言われたのだろうか?失礼な事があったのでは?
それとも…清貴様の様な事が……?
いや違う…司様は優しい人だ…怖くなんてない。信じなくちゃ…

焦りの中で、莉子の思考は駆け巡り困惑を隠せない。
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