冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
しばらく思い出に浸って、なかなか離れていかない莉子の手に司は自身の手のひらを預け、さわさわと撫でられるくすぐったさと、どうしようも無く込み上げてくる身体の疼きに、人知れず耐えていた。

「…東雲家に入って2年目の夏でしょうか…。」

莉子が意を決した様にポツリポツリと話し出す。

「清貴様が…東雲家のご嫡男なんですが…
普段は寮に入っていたのですが、夏休みに帰って来ていて…。」
莉子の話しを静かに聞きながら、司は緊張する。

清貴に…何かされたのではないかと…。

幼き頃の嫌な記憶が、莉子をこれほどまでに怯えさせているのかと…。

莉子の話しでは…
廊下の掃除をしていたところ、突然現れた清貴に部屋に引き込まれて、抱きつかれて着物を脱がされそうになった事、たまたま通りかかった奥様に見つかり事なきを得たが、お前が誑かしたのかと罵られ蔵にしばらく閉じ込められた事…。

ポツポツと話すその内容は辛く苦しいもので…
黙って聞いていた司ですら、言いようの無い怒りが込み上げた。

「…辛い、思いをしたな…。話してくれて、ありがとう。」

司が歯を食い縛り、口にした言葉は…
莉子を慰めるには足らな過ぎて、言葉知らずの自分に苛立つ。

「司様が…
そのように、辛そうな顔をさせるのは、意図した事では無くて…ただ、これ以上誤解をされたく無い一心で話しただけなのです。」

莉子は司に全てを曝け出して、向き合わなければと思っている。例え形ばかりの婚約者だったとしても…。

莉子の手をそっと握り締め、司は言う。

「俺は…剣道と勉学ばかりに明け暮れた学生時代だったから…女子の気持ちを察する事も出来ない朴念仁なのだと自分でも思う。
だから、また莉子を困らせ、泣かせてしまう事があるかもしれない…
だから、莉子の気持ちをこうやって言葉にしてくれると有り難い。」

司がそう心の中を露としてくれるから、莉子はホッとして緊張が解ける。

「こんな男で申し訳ないな。」
そう呟く司に莉子はブンブンと首を横に振る。
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