冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「さあ、腹が減ったな。俺達は何か食べて帰ろう。」
司はあえて明るく言って歩き出す。

「莉子は何が食べたい?洋食でも定食屋でも、うどん屋か…後は屋台もあるな。」
周りを見回して場所を莉子に決めさせてくれる。

司は2歩下がったところを歩く莉子との距離をもどかしく思い、これが自分と莉子の心の距離なのかと…寂しく感じ足を止める。

莉子はきょろきょろして、司の事を考えながらお店を選んでいたから、その事に気付かず司の背中にぶつかってしまう。

「きゃっ。」

倒れそうになり、咄嗟にギュッと目をつぶる。

「大丈夫か⁉︎」
司に抱き抱えられ、転倒を免れていた事に気付き赤面する。

「ご、ごめんなさい。」

莉子は謝り慌てて離れようとするのに、司はなかなか腕を緩めてくれない。

「危なっかしくて心配だ…。」
そう言ったかたと思うと、大きな手でそっと手を繋がれる。 
びっくりして目を丸くする莉子を笑いながら、司はまた莉子と並んで歩き出す。

「あ、あの…恥ずかしいです。」

若干子供扱いされた様な歯痒い気持ちと、周りからの目が気になって、ジタバタと手を抜こうとするのに、一向に力を緩めてはくれず困り果てて司を見上げる。

「俺達は婚約者だろ?堂々と手ぐらい繋いで歩いたって、誰にも咎められない。」

普段は莉子に触れる事に慎重な司が、この時ばかりはやや強引で、莉子は戸惑い心拍は高鳴り振り回されてしまう。

だけど決して嫌では無い…むしろ安心する。

莉子は複雑な思いを胸に、急いでお店を決める。

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