冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
10分ほどで駆けつけた医者は額の傷に薬を塗りガーゼで押さえる。そして赤く腫れ上がった頬を、冷たい手拭いで何度となく冷やすようにと女中に指示を出す。

腫れを抑える為に、頭から顎にかけて包帯でぐるぐると巻かれた顔は痛々しく、叩いてしまった男でさえも目を背けたくなるほどだった。

「これほどの腫れだから、今夜辺り熱が出ると思います。出来るだけ目を離さず冷やし続けてあげてください。後、彼女ですが栄養失調気味です。身体が痩せ細り体力も足りないかもしれません。このまま1日眠り続けると、脱水症状が心配です。明日の朝には水分を無理矢理でも取らせた方が良いと思われます。」

医者はそう言って怪我の原因を聞く事も無く、痛み止めの薬を置いて足早に帰って行った。

男はその間もずっと8畳の客間の隅に正座し、布団に横たわり未だ意識を取り戻さない、彼女の側を離れようとしない。

「お兄様…責任をお感じになられているのなら、それは私のせいでもあります。どうか思い悩まないで。」
麻里子はそう兄を慰める。


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