冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

(司side)

横浜行きの指令が下り1週間、
引き継ぎに挨拶回りと仕事が忙しく帰りはほぼ深夜を回る。だから莉子との時間は乏しく、あまり話しが出来ていない。

横浜に行く事をどう思っているのだろうか?
本心を聞きたい。
婚約者としての立場と言うよりは、俺の世話係か何かだと思っているのではないかと不安が拭えない。

莉子の妹、亜子についてもなかなか進展が見られない。

悩んだあげく、花街になぜか顔が効く弟の学に妹との事を頼んでみた。
そしたら、その事を知ってから実は探し続けているんだと学は言う。だけど、未だに会う事が叶わず八方塞がりのようだ。

遊郭の中でも敷居が高い老舗の藤田屋は、やはり門番も厳しく、金を積んでも会えるような場所では無いらしい。

出来れば横浜に行く前に莉子を妹に会わせてやりたいが…。


「兄さん、やっと捕まえた。
家にはなかなか帰って来ないし、会社に行っても外出中だし、本当なんなの働き過ぎだよ。」

遅い昼食を最近気に入ったうどん屋でとっていると、突然、弟の学がやって来た。

「何だ?これでも毎日帰っている。
お前が起きるのが遅いから会わないだけだろ。」
俺は素っ気なくそう答え、残り少ないうどんを啜る。

ここは、莉子の父親が好んで通ったうどん屋だ。
貴重な俺の休憩時間にやって来るとは…。
苛立ちを感じながら、最後の汁を啜る。
< 97 / 222 >

この作品をシェア

pagetop