冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

「のんびりうどんなんて食ってる場合じゃないよ。会えるんだよ旭に！」

「旭？…誰だ？」
俺は箸を置き、向かいに座った学を見やる。

「莉子ちゃんの妹だよ。
藤屋のお得意様って言う呉服屋の若旦那と知り合えて、今夜お座敷に招待してもらえたんだ。」

「そうか、身請けの話しは直ぐに出来るのか？」

呆れた顔で学が見て来る。
「これだから…素人は。
簡単に身請けなんて出来る訳ないだろ。しかも旭は売り出し中の振袖新造なんだから。」

自慢じゃないが、今まで接待でだって一度も花街に足を運んだ事がない。花街の仕組みは知らないし、知りたいとも思わないが…。

まだ学生の分際で、それを知ってるお前もお前だ。心で悪態を吐きながら、

「じゃあ、どうすればいいんだ？」

「身請けするにはまず何度も通わなきゃ。それでその子の馴染みになって、その後…良い仲にならないと…。」

「はっ⁉︎
何考えてるんだ？
お前…もしかして邪（よこしま）な事を考えてはないか？
仮にも莉子の妹だ。歳だってまだ14歳だと聞いた。子供じゃないか。」
そんな年端もいかない娘が、既に客を取っている事、事態非常識なのに…。

「莉子には言うなよ。彼女は花街がどういう場所かよく知らない。今はまだ、知らなくていいんだ。」

「それはある意味、酷じゃないか？
莉子ちゃんだって妹の事を知る権利がある。」

「今…わざわざ知る必要は無い。少なくとも姉妹が会うまでは知ったところで辛いだけだ。」