弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
「考え事?」

「少しだけ。もし、彼らに襲われたらどうしたら良いのかなぁと」

「蹴散らせばいい。もし、傷を負わせたり殺したりしたとしても、それは特に罪に問われないだろう。誰が見ても、やつらが悪く見えるだろう。が、もしかしたら、捕まった仲間のこともあるから、少しはおとなしくしている可能性もある」

 ヴィルマーの答えは明確だ。そして、それは正しいのだろうと思うミリア。

「そうだと良いのですが」

「彼らを裁くことについてでも、考えている?」

「いえ……残念ながら、そういう話についてはほぼ門外漢で……わからなくはないのですが、経験がそこまで多くないので、うまく考えられません。未熟ですね……」

「ははっ!」

 ぱん、とヴィルマーは手を叩いた。

「君は本当に、なんていうんだ……良い意味で、きちんと考える人なんだな」

「きちんと考える?」

「ああ。そうだ。きちんと考える。自分に出来ること、出来ないことを判断して、出来ないことを『未熟』だと言う。と言っても、人ってのは、ありとあらゆることに未熟のままであることがほとんどだし、それで誰も特に困らない。」

「……はい」

「が、君が言う『未熟』ってのは、そうではなくなろうとしている感じがする。とても好ましい」

 そう言ってミリアを見る彼は、ふわりと微笑んだ。ちょうど、ミリア側から朝陽が昇り、彼は目を細める。その表情が、まるで少し照れ笑いを見せているように見え、いささか可愛い……と、ミリアは思った。

「買いかぶりですよ」

 そう言って彼から目を逸らすミリアに、ヴィルマーは軽く肩を竦めて見せる。

「いやいや……まあ、ちょっと嫌な話をするとさ」

「ええ」

「未熟でなくなるために、何かを出来る。何かを知ろうと出来るっていうのかな……それが出来る環境にいたってことだ。だから、逆を言えばさ……いい生まれの人間が持っている考え方だな、って話にもなるんだが」

 そのヴィルマーの発言に、ミリアはゆっくりと瞬きながら彼を見る。が、彼の表情、声音からは嫌な感じは受けない。

「いい生まれの人間でも、そんな発想にはなかなかならない。俺はそれを知っているんでね……で、話はそれだけか?」

「はい」

「そうか。頑張って来いよ」

 ヴィルマーはそう笑って、ぽん、とミリアの肩に手を置いた。大きく、そして熱い手。彼の手のひらの熱が布越しでもじんわりと伝わる。それを不快と思わず、ミリアは「そうします」と答えた。
< 10 / 30 >

この作品をシェア

pagetop