弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
 さて、それから数日経過をし、ミリアとヘルマは護衛の仕事を終え、ヤーナックに帰って来た。ヴィルマーの予想通り、特に野盗は現れず、ただ、魔獣が少し森で出た。以前ならば一切魔獣が出ない森だったため、いくらかそれがどうなっているのかと懸念はあったが、ひとまず無事に商人を送り届けて彼女たちは戻って来た。

 そして、それから数日後。ついにヴィルマーたちはヤーナックから離れることになり、みな宿屋の厩舎から馬を出して乗る。

「本当は治療術師を紹介したかったんだが……どうにも、もうここを出なくてはいけなくてな」

 ヴィルマーはバツが悪そうに小声で呟く。ミリアはそれを聞いて「ああ、一週間滞在と言っていたが、10日まで伸ばしたのは、もしかしてそういう理由で……」と理解をした。

「大丈夫です。この宿をお使いになると伺いました。おかみさんにも話を通しておきましたので、きっと会えるでしょうし。お心遣いありがとうございます」

「いや、礼を言われるほどのことでもない。じゃあ、俺たちは次の町に行くが……ううん……」

 ヴィルマーはなんとも言えない表情を見せる。何かを言いたいが、それを何故か言えないような。どうしようかと悩んでいるような。ミリアはそれへ、首を軽く横に傾げた。

「まだ何か?」

「いや……なんでもない。悪かった。次に我々がこの町に来る頃には、君の足が治って王城に戻っていることを願っている」

「ありがとうございます」

 ヴィルマーは手を差し出した。ミリアはそれを握って、軽く微笑んだ。ヴィルマーの大きな手がミリアの手を握ったまま、いつまでも離れない。

「……ヴィルマーさん?」

「ああ、いや、すまん」

 そう言って慌てて手を離すと、ヴィルマーは馬に乗った。待っていた人々はそれを見て「じゃ、先に町の外に出てますよ!」と言って馬を歩かせる。ミリアとヘルマは彼らに軽く手を振って見送った。

「もう行かなければいけませんよ」

 最後まで残ってヴィルマーにそう言うのはクラウスだ。ヴィルマーは軽く頷いて「では、またな」と言って馬を歩かせた。それに続いて、クラウスも軽くミリアたちに頷いてからヴィルマーについていく。

「またな……ですか」

 ミリアには、王城に戻っていることを願っていると言ったくせに、再会を望むような言葉を口走るヴィルマー。しばらくミリアはヴィルマーとクラウスの背を見送っていた。そこへ、ヘルマが声をかける。

「お嬢様。大丈夫ですか。あの人、お嬢様に気があるんじゃないですか? 何かされませんでしたか?」

「ふふ、大丈夫よ。特に何も。良い人たちでした。さあ、それじゃあ今日も役所に行きましょう」

 ミリアはそう言って、ヘルマを伴って役所へ向かった。
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