弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
 それから、ミリアも加わって剣の鍛錬を開始した。ヴィルマーは横で見ているクラウスに声をかける。

「どうだ」

「あれは、人に物を教えたことがある人間の教え方ですね。しかも、隠してはいるようですが、もともと騎士の剣を使っている。とはいえ、みなにはそれを強要していない」

「そうだな」

「剣を振るうことが苦手な者に木刀での素振りをさせていますが、褒めて伸ばしていてお上手ですねぇ。それでいて、体勢にはシビアだ」

 クラウスはそう言って、肩を竦めてヴィルマーを見る。

「彼女、何者なんです? もうご存じなんでしょう? 一緒にいるヘルマは、我々の前で彼女を呼ばないですが『お嬢様』と呼ぶところを一度見たことがある」

「多分だが……彼女は、レトレイド伯爵令嬢、元王城第二騎士団長だ。王城の噂話がここに届くのには時間がかかるし、騎士団長の入れ替わりなんかはなかなか話題にならない。だが、初の女性騎士団長だったのでな……」

「ほう、騎士団長。それはそれは……」

「だが、パンを焼く」

 ヴィルマーはそう言って、クラウスを見上げてにやりと笑う。その笑みを見て、困ったようにクラウスは深いため息をついた。

「ああ~、それは、よろしくない」

「よろしくないか」

「伯爵令嬢が焼くパンなんて、そりゃあどんなものか食べたくなるでしょうが」

「あっはははは! お前も走れ! 付き合え!」

 そう言ってヴィルマーは豪快に笑いながら、クラウスの背をばんばんと叩いた。結果、彼ら2人は3日後の走り込みに参加をすることになるのだった。
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