弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
ミリアはヴィルマーに送ってもらった後、足が少し痛むからと言って朝の鍛錬を休んだ。少し眠ろうと、ベッドに戻る。うとうととなんだか夢心地の状態が続く。
(ああ、そうだわ……わたしは……)
忘れていた。いや、忘れようとしていた。17歳で断り切れずに婚約をした相手のことを。まったく悪い人ではなかった。むしろ、条件そのものはとても良かった。家柄も悪くなかったし、公爵家の跡取りだったし、その才覚もあった。
だが、彼は当時騎士団員だったミリアのことを、結婚をしたら騎士団を退団することが当然だと思っていた。いや、確認すらせずに、そうなると思い込んでいた。
(でも、あれはわたしも悪かった)
彼にとって貴族令嬢というものは「そういうもの」なのだ。それに気付かなかった自分も悪かったのだ。レトレイド家が武官の家門だからとはいえ、まさか女性が……と彼は思っていたに違いない。
「嫌々君が入っている騎士団を辞めることも出来る」
ある時、彼はそう言った。ミリアは驚いた。何故ならば、彼女は嫌々どころか、自分から好き好んで騎士団に入団していたのだから。だが、彼はそうは考えなかった。レトレイド家の長女として「武官の家門」だから「仕方なく」そうしているのだ、そうしろと両親から言われて育ったのだとそう解釈をしていた。
まず、それは違うと話をして、なんとか理解をしてもらった。しかし、彼はミリアに対して「自分には甘えて欲しい」と何度も繰り返し言い続け、ミリアを辟易させた。
今ならばわかる。それは、彼の男性としての沽券にも関わることだし、必要とされたいという欲を満たすことでもある。何度も何度もそう言われ、それが出来ないミリアに対して彼は不満を抱いた。彼は結局、どこまでいってもミリアが「仕方なく」騎士団にいるのだと思っていたのだ。表面では理解をしたふりをしていても。結果的に、それが婚約破棄の理由だった。
「もう少しでいいから、僕に甘えて欲しかった。君が強いことはよくわかっているが、それでも少しは頼って欲しかったよ」
当時のミリアは「何をどう甘えろと言っているのか」と驚いた。そして「何を頼れと言うのだろうか」とも。
本来、貴族同士の婚約破棄は、そう簡単に行われることではない。だが、レトレイド家からすれば「武官の家門」であることを尊重できない婿はいらない。そしてまた、彼の両親は、後継者である彼が嫌がるならば仕方がないと、むしろ彼を甘やかした。その時、彼女は「なるほど、自分が甘やかされているから、婚約者ぐらいは自分に甘えて欲しいと考えているのだな」と納得をしたものだ。
(でも……今は、なんとなくわかる)
自分が騎士団を退団したからだろうか。それとも。
(甘えられる相手が出来てしまったから……)
だからといって、当時の元婚約者に自分は甘えられただろうか。いや、そうではない。あの頃の自分は、彼に何一つ甘えることが出来なかったし、甘える必要もなかったのだ。だから、あれは仕方がないことだったのだ。
(ヴィルマーさんに、どうして甘えてしまうのかしら。どうして、彼に言われても、嫌な気持ちにならないのでしょうか……)
心の奥に、既に答えは用意されている。それをミリアはわかっていた。わかっていたけれど、見て見ぬふりをする。まだ少しだけ、勇気が出ない……ぐるぐるとそんなことを考えながら、すうっと彼女は深い眠りに落ちて行った。
(ああ、そうだわ……わたしは……)
忘れていた。いや、忘れようとしていた。17歳で断り切れずに婚約をした相手のことを。まったく悪い人ではなかった。むしろ、条件そのものはとても良かった。家柄も悪くなかったし、公爵家の跡取りだったし、その才覚もあった。
だが、彼は当時騎士団員だったミリアのことを、結婚をしたら騎士団を退団することが当然だと思っていた。いや、確認すらせずに、そうなると思い込んでいた。
(でも、あれはわたしも悪かった)
彼にとって貴族令嬢というものは「そういうもの」なのだ。それに気付かなかった自分も悪かったのだ。レトレイド家が武官の家門だからとはいえ、まさか女性が……と彼は思っていたに違いない。
「嫌々君が入っている騎士団を辞めることも出来る」
ある時、彼はそう言った。ミリアは驚いた。何故ならば、彼女は嫌々どころか、自分から好き好んで騎士団に入団していたのだから。だが、彼はそうは考えなかった。レトレイド家の長女として「武官の家門」だから「仕方なく」そうしているのだ、そうしろと両親から言われて育ったのだとそう解釈をしていた。
まず、それは違うと話をして、なんとか理解をしてもらった。しかし、彼はミリアに対して「自分には甘えて欲しい」と何度も繰り返し言い続け、ミリアを辟易させた。
今ならばわかる。それは、彼の男性としての沽券にも関わることだし、必要とされたいという欲を満たすことでもある。何度も何度もそう言われ、それが出来ないミリアに対して彼は不満を抱いた。彼は結局、どこまでいってもミリアが「仕方なく」騎士団にいるのだと思っていたのだ。表面では理解をしたふりをしていても。結果的に、それが婚約破棄の理由だった。
「もう少しでいいから、僕に甘えて欲しかった。君が強いことはよくわかっているが、それでも少しは頼って欲しかったよ」
当時のミリアは「何をどう甘えろと言っているのか」と驚いた。そして「何を頼れと言うのだろうか」とも。
本来、貴族同士の婚約破棄は、そう簡単に行われることではない。だが、レトレイド家からすれば「武官の家門」であることを尊重できない婿はいらない。そしてまた、彼の両親は、後継者である彼が嫌がるならば仕方がないと、むしろ彼を甘やかした。その時、彼女は「なるほど、自分が甘やかされているから、婚約者ぐらいは自分に甘えて欲しいと考えているのだな」と納得をしたものだ。
(でも……今は、なんとなくわかる)
自分が騎士団を退団したからだろうか。それとも。
(甘えられる相手が出来てしまったから……)
だからといって、当時の元婚約者に自分は甘えられただろうか。いや、そうではない。あの頃の自分は、彼に何一つ甘えることが出来なかったし、甘える必要もなかったのだ。だから、あれは仕方がないことだったのだ。
(ヴィルマーさんに、どうして甘えてしまうのかしら。どうして、彼に言われても、嫌な気持ちにならないのでしょうか……)
心の奥に、既に答えは用意されている。それをミリアはわかっていた。わかっていたけれど、見て見ぬふりをする。まだ少しだけ、勇気が出ない……ぐるぐるとそんなことを考えながら、すうっと彼女は深い眠りに落ちて行った。