弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
「ヴィルマーさんはお嬢様のことがお好きなんですか!?」

 ヘルマが声を荒げる。彼女の前で困惑の声を漏らすのはクラウスだ。

「……ううーん」

「クラウスさん!」

「それはぁ、わたしの口からはなんとも……」

 と逃げるクラウスに、がんがん話を続けるヘルマ。

「今朝、お嬢様をヴィルマーさんが家に送って来たんです! もう、わたしお二方が一晩を一緒に過ごしたのかと一瞬勘違いをして……!」

「あっはは!」

 警備隊の朝の鍛錬。ミリアは少し左足が痛むということで休んでいる。そこで、何故かヴィルマーがクラウスに「お前が代わりにいってやれ」とわけがわからないことを言い出したので、クラウスが仕方なくやって来た。そして、鍛錬後にヘルマにあれこれと言われているところだ。

「っていうか、ヘルマさん、ミリアさんのことをお嬢様、って呼んで大丈夫なんですか?」

「えっ、いいんじゃないですか。だって、クラウスさんの前では別にいいでしょ。もうご存じみたいですし」

「うーん。まあ、まあ。うん」

 人々が帰った後に、ヘルマは土を整地するために木材で作ったT字の器具を持って、がりがりと地面の表面を均す。それに仕方なくクラウスも付き合いながら、話を続けた。

「まあ、よくわからないんですが……逆にミリアさんはヴィルマーをどう思ってるんですかね?」

「よくわかりません!」

「よくわからない、かぁ~」

 ヘルマは、ぴたりと器具を手で地面に押さえつけるように持って、止まった。

「わかりませんけど……お嬢様は、ご自分が誰かに好きになってもらえることなんて、あるのかと……そう思っていらっしゃるようで……」

「ええっ!?」

 それには、クラウスは驚愕の声をあげる。

「どうして? あんなに綺麗で、その上強くて、あと、あれでしょう。頭も良さそうだし、淡々と見えるかもしれないが穏やかで優しい方じゃないかと……」

「そうですよ!」

「なのに?」

「なのに! です!」

 ヘルマはたんたん、と軽く足を踏み鳴らした。唇を軽く突き出して、心から憤慨をしている様子だ。

「ですから、ヴィルマーさんが本当にお嬢様のことをお好きなら、もう、ガツンと! ガツンと! 言っていただけないと……」

「あっ、それはいいんだ……?」

「それが実るかどうかは別としてですね……!」

「駄目じゃないですか!」

 そう言いながらもクラウスは笑う。ヘルマは本気でミリアのことを心配しているようで、少しばかり斜め上ではあるが、今の状況にやきもきはしているのだ。彼女のその気持ちは、彼にも痛いほど伝わって来る。

 クラウスは「さ、さっさと均して、帰りましょう」とヘルマを急かし、仕方ない、とばかりにヘルマは「はい」と頷く。ミリアからすれば「あなたたちも大概ですね」と言いたくなるような会話をぐだぐだと繰り広げながら、2人は後片付けを続けるのだった。
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