弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
7.2人の想い
「ありがとうございます」
「礼を言われることじゃあない。それは、こちらのセリフだ。ヤーナックを守ってくれたんだろう。北側から来たので、事情は聞いている」
「いつもより、早くヤーナックにいらしたのですね」
「ああ。サーレック辺境伯……父上から、ヤーナックに送る人員の確保が出来たと伝えられたので、急ぎでまず5人連れて来たんだ。よかった。本当に……もしそれがなければもうしばらく悠長にしていただろうし、来ていなければ……」
きっと、ミリアは助けられなかった。ヴィルマーは、前に座る彼女の腰をぎゅっと後ろから抱きかかえ、彼女の肩に頭をがくんとつけた。
「無事で本当によかった……君が1人でギスタークの死骸を持って出たと聞いた時、心臓が鷲掴みにされたようだった……」
ミリアは首筋に当たるヴィルマーの髪をくすぐったいと思ったが、それへ、軽く自分の頭も傾げてそっとくっつけた。すると、彼はわずかにぴくりと反応をしたが、そのままの状態になり、互いの頭をつけて数秒。
(ああ、なんだか、この時間がとても)
愛しいとミリアが思った時だった。ヴィルマーが、彼女に呟く。
「君が好きだ。君は、俺のことが好きなのか」
周囲は、わあわあとギスターク狩りで声をあげている。そして、近くにはすでにミリアに倒されたギスタークが何匹も倒れていた。そんな状態での告白。ミリアは「ふふ」と笑って
「好きではない男に、こんなことは許しません」
と告げた。
「そうか」
そう言って、ヴィルマーは彼女の腰に回した腕に力を更に入れる。その腕に、そっとミリアは手を触れた。
「ヴィルマーさん。左足が痛むので、このままヤーナックに一緒に乗せてもらっても良いですか?」
「ああ、勿論だ」
「わたしは、本当は甘えるのが得意ではないんですけど」
「……そんな女に甘えられたら、男ってのは馬鹿だから舞い上がっちまう」
「舞い上がってください。是非」
ヴィルマーは顔をあげ、彼女の腰を抱いていた腕をほどき、自分の腕に触れていた彼女の手を握りしめた。ミリアが驚いて体をひねって後ろを振り向くと、彼は彼女の手を自分の口元に導いた。
「好きだ」
大きな手にいざなわれたミリアの手の甲に、彼は口づけを落とした。それから、そっとその手を離す。すると、彼女は体を後ろにぐいと伸ばして彼を見上げた。
「お、おい、あぶな……」
ほんの一瞬。軽く、ヴィルマーの下唇を掠めるようなキス。彼女の顔が離れると、ヴィルマーはいささか目を大きく見開き、驚きの表情になっていた。
「……なるほど、君は情熱的な人だったんだな。知らなかった」
「わたしも知りませんでした」
そう言って、ミリアは頬を染めて俯く。ヴィルマーはそんな彼女の顔を横から覗こうとしたが、嫌がられる。「はは」と声を出して笑ってから、再び彼女の腰を強く抱いた。ミリアの背に当たる彼の胸板のたくましさと熱。それを、彼女は俯きながらじんわりと味わい、また、彼に口づけられた自分の片手を、もう片方の手で握る。
「なあ、もう一度……」
そうヴィルマーが耳元で囁いた時、遠くで声が聞こえた。
「ヴィルマー! こっちはあらかた片付いたぞ!」
「おい、ヴィルマー!」
傭兵たちの声だ。ヴィルマーは「うう」と呻いて顔をあげる。
「うるせぇな! クラウスはどうした! クラウスに聞け!」
彼の腕の中にいるミリアは尋ねた。
「そういえば、傭兵団の方々は、全員がサーレック辺境伯の私兵か何かなのですか?」
「いや、違う。俺とクラウス以外は、みな普通に傭兵だ。おかげで、俺の言葉遣いもよろしくなくなったってわけだ」
そう言ってヴィルマーはミリアを片手で抱き締めながら馬を動かした。見れば、ヤーナックの町の方から、ギスタークの死骸を片付けるために警備隊が向かっている。それへヴィルマーは手をあげ、ミリアも共に手をあげて出迎えた。こうして、ギスタークに関する騒動は終えることとなった。
「礼を言われることじゃあない。それは、こちらのセリフだ。ヤーナックを守ってくれたんだろう。北側から来たので、事情は聞いている」
「いつもより、早くヤーナックにいらしたのですね」
「ああ。サーレック辺境伯……父上から、ヤーナックに送る人員の確保が出来たと伝えられたので、急ぎでまず5人連れて来たんだ。よかった。本当に……もしそれがなければもうしばらく悠長にしていただろうし、来ていなければ……」
きっと、ミリアは助けられなかった。ヴィルマーは、前に座る彼女の腰をぎゅっと後ろから抱きかかえ、彼女の肩に頭をがくんとつけた。
「無事で本当によかった……君が1人でギスタークの死骸を持って出たと聞いた時、心臓が鷲掴みにされたようだった……」
ミリアは首筋に当たるヴィルマーの髪をくすぐったいと思ったが、それへ、軽く自分の頭も傾げてそっとくっつけた。すると、彼はわずかにぴくりと反応をしたが、そのままの状態になり、互いの頭をつけて数秒。
(ああ、なんだか、この時間がとても)
愛しいとミリアが思った時だった。ヴィルマーが、彼女に呟く。
「君が好きだ。君は、俺のことが好きなのか」
周囲は、わあわあとギスターク狩りで声をあげている。そして、近くにはすでにミリアに倒されたギスタークが何匹も倒れていた。そんな状態での告白。ミリアは「ふふ」と笑って
「好きではない男に、こんなことは許しません」
と告げた。
「そうか」
そう言って、ヴィルマーは彼女の腰に回した腕に力を更に入れる。その腕に、そっとミリアは手を触れた。
「ヴィルマーさん。左足が痛むので、このままヤーナックに一緒に乗せてもらっても良いですか?」
「ああ、勿論だ」
「わたしは、本当は甘えるのが得意ではないんですけど」
「……そんな女に甘えられたら、男ってのは馬鹿だから舞い上がっちまう」
「舞い上がってください。是非」
ヴィルマーは顔をあげ、彼女の腰を抱いていた腕をほどき、自分の腕に触れていた彼女の手を握りしめた。ミリアが驚いて体をひねって後ろを振り向くと、彼は彼女の手を自分の口元に導いた。
「好きだ」
大きな手にいざなわれたミリアの手の甲に、彼は口づけを落とした。それから、そっとその手を離す。すると、彼女は体を後ろにぐいと伸ばして彼を見上げた。
「お、おい、あぶな……」
ほんの一瞬。軽く、ヴィルマーの下唇を掠めるようなキス。彼女の顔が離れると、ヴィルマーはいささか目を大きく見開き、驚きの表情になっていた。
「……なるほど、君は情熱的な人だったんだな。知らなかった」
「わたしも知りませんでした」
そう言って、ミリアは頬を染めて俯く。ヴィルマーはそんな彼女の顔を横から覗こうとしたが、嫌がられる。「はは」と声を出して笑ってから、再び彼女の腰を強く抱いた。ミリアの背に当たる彼の胸板のたくましさと熱。それを、彼女は俯きながらじんわりと味わい、また、彼に口づけられた自分の片手を、もう片方の手で握る。
「なあ、もう一度……」
そうヴィルマーが耳元で囁いた時、遠くで声が聞こえた。
「ヴィルマー! こっちはあらかた片付いたぞ!」
「おい、ヴィルマー!」
傭兵たちの声だ。ヴィルマーは「うう」と呻いて顔をあげる。
「うるせぇな! クラウスはどうした! クラウスに聞け!」
彼の腕の中にいるミリアは尋ねた。
「そういえば、傭兵団の方々は、全員がサーレック辺境伯の私兵か何かなのですか?」
「いや、違う。俺とクラウス以外は、みな普通に傭兵だ。おかげで、俺の言葉遣いもよろしくなくなったってわけだ」
そう言ってヴィルマーはミリアを片手で抱き締めながら馬を動かした。見れば、ヤーナックの町の方から、ギスタークの死骸を片付けるために警備隊が向かっている。それへヴィルマーは手をあげ、ミリアも共に手をあげて出迎えた。こうして、ギスタークに関する騒動は終えることとなった。