弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
ギスタークの後片付けなどをクラウスたちや警備隊、ヘルマに任せ、ヴィルマーはミリアと共にヤーナックの町に向かった。人々にあれこれ言われたが、それを軽く振り切って、彼はミリアの家に彼女を送り届けた。
「足は大丈夫か」
「まだ、力が入りません。少し無理をし過ぎたようです」
「あとでスヴェンが怒るかもしれない。先に連絡をとって言い訳をしておこう」
ヴィルマーは先に馬から降りる。左足に力が入らないミリアは、慌てて前傾になって馬の首にそっとしがみついた。その手を「大丈夫だ」とヴィルマーはほどき、自分の首に回させる。
「俺に言っただろう。舞い上がってもいいって」
それは、自分に甘えろ、という意味だ。ミリアは今更ながら、かあっと頬を紅潮させた。どうして先ほどはそんなことを言えたのだろうか、と自分でも驚くぐらいだ。だが、それほどきっと気分が高揚していたのだ。彼女は照れくさそうに呟く。
「少し……言い過ぎましたね」
「あっはは、今頃我に返ったのか。君は可愛い人だな」
そう言って、彼女の体を馬から下ろし、横抱きの状態で家の扉を開けるヴィルマー。ミリアは何かを言おうと思ったが、言葉を失ったようでおとなしくしている。が、突然左足に激痛が走って、体を縮こまらせた。
「っつぅ……!」
「痛むか。炎症でも起こしているのかな」
「少し熱いです。でも、しばらくすれば収まりますので……ヴィルマーさん、後はお任せしても良いでしょうか」
「ああ、任せろ。寝室はどこだ? ああ、ここか?」
そう言うと、ヴィルマーはずかずかと家の中を歩き、彼女の部屋に入った。それから椅子に彼女を静かに下す。左足の痛みに僅かに顔をしかめながら腰かける彼女の前で、彼は膝をついた。
「すまないな。さすがに土でそれだけ汚れていても、着替えやそのあたりは手伝ってやれない。ヘルマが戻るまで、なんとか着替えて、少しでも休んでいてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「うん」
彼はミリアの手を取った。先ほど彼が口づけた方と逆の手を持って、再びそっとその甲に口づける。まるで時間が止まったようだ。ミリアは呼吸を止めて、じっとその様子を見守る。こんな風に、男性が自分に口づけてくれるなんて。それをまじまじと見ると、鼓動が早くなって泣きそうな気持ちになる。
「正式なプロポーズは、また後でな」
「……はい……」
彼女の返事に彼は嬉しそうに笑う。すっと立ち上がって「じゃあ」と部屋から出て行こうとした。ミリアはなんと声をかけていいのか困ったように、唇を半開きにして「あ……」と小さな声をあげた。
すると、その声に反応したようにヴィルマーはくるりと振り返った。
(え? ヴィルマーさん……)
少し早足で彼はミリアの元に戻り、手を伸ばす。突然のことでミリアはそれに反応が出来ず、彼を見上げるのが精一杯だった。
「っ!」
頭を軽く押えられ、彼から与えられたのはあっさりとした口づけ。ミリアは驚いたが、その瞬間なんとか瞳を閉じた。まるで、ついばむようなキスを2回。そして、唇から離れ、頬に1回。彼はミリアを覗き込むように小さく笑って
「悪い。これぐらい許せ。我慢が出来なかった。じゃあ、本当に行ってくる」
と、ようやく部屋を出て行った。バタン、と閉じられた扉を見ながら、ミリアは椅子の背に体をもたれかけ、ずるずると尻を前にずらして体を低く沈める。左足がずきずきと痛んだが、そんなことは彼女にはもうどうでもよかった。
「甘えているのは、ヴィルマーさんの方じゃないですか……もう……」
そう呟いてから、彼に口づけられた自分の甲に、軽くミリアもキスを落とした。
「足は大丈夫か」
「まだ、力が入りません。少し無理をし過ぎたようです」
「あとでスヴェンが怒るかもしれない。先に連絡をとって言い訳をしておこう」
ヴィルマーは先に馬から降りる。左足に力が入らないミリアは、慌てて前傾になって馬の首にそっとしがみついた。その手を「大丈夫だ」とヴィルマーはほどき、自分の首に回させる。
「俺に言っただろう。舞い上がってもいいって」
それは、自分に甘えろ、という意味だ。ミリアは今更ながら、かあっと頬を紅潮させた。どうして先ほどはそんなことを言えたのだろうか、と自分でも驚くぐらいだ。だが、それほどきっと気分が高揚していたのだ。彼女は照れくさそうに呟く。
「少し……言い過ぎましたね」
「あっはは、今頃我に返ったのか。君は可愛い人だな」
そう言って、彼女の体を馬から下ろし、横抱きの状態で家の扉を開けるヴィルマー。ミリアは何かを言おうと思ったが、言葉を失ったようでおとなしくしている。が、突然左足に激痛が走って、体を縮こまらせた。
「っつぅ……!」
「痛むか。炎症でも起こしているのかな」
「少し熱いです。でも、しばらくすれば収まりますので……ヴィルマーさん、後はお任せしても良いでしょうか」
「ああ、任せろ。寝室はどこだ? ああ、ここか?」
そう言うと、ヴィルマーはずかずかと家の中を歩き、彼女の部屋に入った。それから椅子に彼女を静かに下す。左足の痛みに僅かに顔をしかめながら腰かける彼女の前で、彼は膝をついた。
「すまないな。さすがに土でそれだけ汚れていても、着替えやそのあたりは手伝ってやれない。ヘルマが戻るまで、なんとか着替えて、少しでも休んでいてくれ」
「はい。ありがとうございます」
「うん」
彼はミリアの手を取った。先ほど彼が口づけた方と逆の手を持って、再びそっとその甲に口づける。まるで時間が止まったようだ。ミリアは呼吸を止めて、じっとその様子を見守る。こんな風に、男性が自分に口づけてくれるなんて。それをまじまじと見ると、鼓動が早くなって泣きそうな気持ちになる。
「正式なプロポーズは、また後でな」
「……はい……」
彼女の返事に彼は嬉しそうに笑う。すっと立ち上がって「じゃあ」と部屋から出て行こうとした。ミリアはなんと声をかけていいのか困ったように、唇を半開きにして「あ……」と小さな声をあげた。
すると、その声に反応したようにヴィルマーはくるりと振り返った。
(え? ヴィルマーさん……)
少し早足で彼はミリアの元に戻り、手を伸ばす。突然のことでミリアはそれに反応が出来ず、彼を見上げるのが精一杯だった。
「っ!」
頭を軽く押えられ、彼から与えられたのはあっさりとした口づけ。ミリアは驚いたが、その瞬間なんとか瞳を閉じた。まるで、ついばむようなキスを2回。そして、唇から離れ、頬に1回。彼はミリアを覗き込むように小さく笑って
「悪い。これぐらい許せ。我慢が出来なかった。じゃあ、本当に行ってくる」
と、ようやく部屋を出て行った。バタン、と閉じられた扉を見ながら、ミリアは椅子の背に体をもたれかけ、ずるずると尻を前にずらして体を低く沈める。左足がずきずきと痛んだが、そんなことは彼女にはもうどうでもよかった。
「甘えているのは、ヴィルマーさんの方じゃないですか……もう……」
そう呟いてから、彼に口づけられた自分の甲に、軽くミリアもキスを落とした。