弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
2.出会い
「なっ……」
「そして、わたしはもう騎士団を退団した身ですので、ルールは無用」
そう言うと馬上から身を翻して降りるミリア。こちらは馬に乗っていたのだから、いささか荒くとも突破できないわけではない。だが、彼女は盗賊たちを倒して情報を聞きたいのだ……そうヘルマは理解をして、彼女も馬から降りて剣を抜いた。
「くそっ、やっちまえ!」
男たちは口々に叫んで2人に襲いかかる。が、ミリアの剣の腕前は、王城での剣術大会で2位を得た時もあるほどのものだったし、そのミリアの護衛についているヘルマも当然ながら相当なものだ。そのうえ、ミリアは相手との人数に差がある場面に今まで何度も出くわしてきたため、これぐらいの相手ならばそう困ることもない。
肝心なのは、一人に対して2太刀以上続けて相手にしないことだ。それが無理そうならば、一打で相手をスルーして、他の者の相手をした後ですぐにスルーをした者に戻る。そして、可能ならば3人は相手にしない。それをうまく守りながら、男たちをねじ伏せていく。
が、ミリアが2人、ヘルマが1人転ばせたその時、新しい勢力がそこに現れた。
「おい! お前たち、今日という今日は逃がさないぞ!」
突然、男性数人が馬に乗って現れた。その姿を見た盗賊たちは「げっ」と声をあげ、互いに目配せをして明らかに逃げようとする。
「あっ、逃げるのか!?」
「あいつらには捕まりたくねぇんだよ!」
そう言うと、あっという間に男たちは大慌てで走って逃げていく。ヘルマがそれを追いかけようとしたが、ミリアが「追わなくていい」と止める。様子を見れば「今日は逃がさない」と言っていた男たちもそれは口先だけだったのか、彼らを追わない雰囲気だった。すると、先頭の馬に乗っていた男性が、馬から降りて2人に近づく。
「俺たちが余計なことをしたようで申し訳ない。君たちが襲われていると思って割り込んだが、よく見れば結構余裕で勝っていたようだったなぁ。まったく、失礼をしてしまった」
そう言って男は朗らかに笑った。
「いいえ、こちらとしても、慣れぬ土地で大きな問題を起こしたくなかったので、声をかけていただけて助かりました」
「そう言ってもらえると助かるな。ここにいるということは、ヤーナックに行くか、ヤーナックから出て来たのかな?」
「今からヤーナックに向かうところです」
「それなら、良ければ俺たちと一緒に行くのはどうだろうか。馬の歩みはそちらに合わせる」
ミリアは、そう相手をじっと見るわけでもなく、だが気付かれぬように見定めた。良い馬に乗っている。がっしりとした体格で、若いだろうにどことなくリーダーの貫禄がある。年のころは20代半ば。伸ばした灰色の髪は後ろで一つに束ねており、精悍な顔立ちだ。マントは薄汚れているが、衣類そのものの質は悪くない。腰に帯剣をしているが……。
「失礼とは存じますが、お名前をお伺いしても?」
「ああ、俺は傭兵のヴィルマーと言う。サーレック辺境伯から依頼を受けて、領地内にあるはずれの町を巡回しているんだ」
「はずれの町を」
「サーレック辺境伯の領地は広すぎて、それぞれの町に手厚く部下を派遣出来ていない。一応それぞれの町のトップとやりとりはしているけどな。その中でもいくつかの町は警備隊もなく、トラブルも多い。ヤーナックもその中の一つだ」
なるほど、警備隊すらないのか。それは荒れた町なのかもしれない、とミリアは心の中で小さくため息をついた。
「さっきの男たちのような?」
「あいつらも問題だ。野盗が増えていてなぁ~……まあ、その話はおいおい。どうだろう? ヤーナックまでご一緒しても良いかな?」
「はい。わたしはミリア。こちらはヘルマといいます」
「よろしく」
ヴィルマーは2人に手を差し出す。それへ握手を返し、一同はヤーナックに向かうのだった。
「そして、わたしはもう騎士団を退団した身ですので、ルールは無用」
そう言うと馬上から身を翻して降りるミリア。こちらは馬に乗っていたのだから、いささか荒くとも突破できないわけではない。だが、彼女は盗賊たちを倒して情報を聞きたいのだ……そうヘルマは理解をして、彼女も馬から降りて剣を抜いた。
「くそっ、やっちまえ!」
男たちは口々に叫んで2人に襲いかかる。が、ミリアの剣の腕前は、王城での剣術大会で2位を得た時もあるほどのものだったし、そのミリアの護衛についているヘルマも当然ながら相当なものだ。そのうえ、ミリアは相手との人数に差がある場面に今まで何度も出くわしてきたため、これぐらいの相手ならばそう困ることもない。
肝心なのは、一人に対して2太刀以上続けて相手にしないことだ。それが無理そうならば、一打で相手をスルーして、他の者の相手をした後ですぐにスルーをした者に戻る。そして、可能ならば3人は相手にしない。それをうまく守りながら、男たちをねじ伏せていく。
が、ミリアが2人、ヘルマが1人転ばせたその時、新しい勢力がそこに現れた。
「おい! お前たち、今日という今日は逃がさないぞ!」
突然、男性数人が馬に乗って現れた。その姿を見た盗賊たちは「げっ」と声をあげ、互いに目配せをして明らかに逃げようとする。
「あっ、逃げるのか!?」
「あいつらには捕まりたくねぇんだよ!」
そう言うと、あっという間に男たちは大慌てで走って逃げていく。ヘルマがそれを追いかけようとしたが、ミリアが「追わなくていい」と止める。様子を見れば「今日は逃がさない」と言っていた男たちもそれは口先だけだったのか、彼らを追わない雰囲気だった。すると、先頭の馬に乗っていた男性が、馬から降りて2人に近づく。
「俺たちが余計なことをしたようで申し訳ない。君たちが襲われていると思って割り込んだが、よく見れば結構余裕で勝っていたようだったなぁ。まったく、失礼をしてしまった」
そう言って男は朗らかに笑った。
「いいえ、こちらとしても、慣れぬ土地で大きな問題を起こしたくなかったので、声をかけていただけて助かりました」
「そう言ってもらえると助かるな。ここにいるということは、ヤーナックに行くか、ヤーナックから出て来たのかな?」
「今からヤーナックに向かうところです」
「それなら、良ければ俺たちと一緒に行くのはどうだろうか。馬の歩みはそちらに合わせる」
ミリアは、そう相手をじっと見るわけでもなく、だが気付かれぬように見定めた。良い馬に乗っている。がっしりとした体格で、若いだろうにどことなくリーダーの貫禄がある。年のころは20代半ば。伸ばした灰色の髪は後ろで一つに束ねており、精悍な顔立ちだ。マントは薄汚れているが、衣類そのものの質は悪くない。腰に帯剣をしているが……。
「失礼とは存じますが、お名前をお伺いしても?」
「ああ、俺は傭兵のヴィルマーと言う。サーレック辺境伯から依頼を受けて、領地内にあるはずれの町を巡回しているんだ」
「はずれの町を」
「サーレック辺境伯の領地は広すぎて、それぞれの町に手厚く部下を派遣出来ていない。一応それぞれの町のトップとやりとりはしているけどな。その中でもいくつかの町は警備隊もなく、トラブルも多い。ヤーナックもその中の一つだ」
なるほど、警備隊すらないのか。それは荒れた町なのかもしれない、とミリアは心の中で小さくため息をついた。
「さっきの男たちのような?」
「あいつらも問題だ。野盗が増えていてなぁ~……まあ、その話はおいおい。どうだろう? ヤーナックまでご一緒しても良いかな?」
「はい。わたしはミリア。こちらはヘルマといいます」
「よろしく」
ヴィルマーは2人に手を差し出す。それへ握手を返し、一同はヤーナックに向かうのだった。