弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
 その晩、ヴィルマーとクラウスは宿屋の隣にある酒場兼食事処にミリアたちを誘った。中に入ると、ヴィルマーの仲間たちが既に数人酒を飲んでいて「おっ、帰って来たか」と手を振って挨拶をする。

 子羊を煮込んだシチュー、魔獣バイコーンのもも肉のロースト、この付近で獲れるバントと呼ばれる芋を焼いたもの、野菜を細かく切って甘辛く炒めたものを詰めたパイ……それらを「今日は俺が選ぼう」と頼むヴィルマー。

 彼らは誰も酒を頼まず、果物を漬けた茶を並べて乾杯した。何に乾杯なのかと言っても、特に何もない。「なんかわからんが、乾杯」と適当なことをヴィルマーが言い、クラウスが「出会いに乾杯とか言ったら、ぞっとしたところでした」と突っ込むものだから、ヘルマが声を出して笑う。

「本当は、ヤーナックにようこそ、とでも言えばいいんだろうが、我々はここがホームというわけでもないのでな……毎月やってくるものだが」

「そういえば、子供たちが『おかえり』と言っていましたね」

「やつらからすれば、そうなんだろうなぁ……さ、子羊のシチューを取り分けよう。ここはなんでも大皿で出てくるから、2人で頼む時は気を付けるといい」

 そう言って、ヴィルマーは豪快に盛られた大きな皿から、少し雑ではあるが4つの皿に取り分ける。それをミリアがじっと見ると、彼はその視線を感じ取ったようだ。

「ん? どうした? 何かおかしいか?」

「いえ、まるで配給のようだと思っただけです。ヴィルマーさんのようにわざわざ全員分よそう人は珍しいなと思って……」

「はは。最初だけな。2人が遠慮をするんじゃないかと思ったので」

 あっさりと彼はそう言葉を返す。聞かれれば答えるが、聞かれなければわざわざ言わなかったのだろう。少し大雑把なように見えて、それは見せかけだ。彼は相手の気持ちに配慮することが出来る人なのだろう……とミリアは思った。
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