弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長に甘やかされる
それから、彼女たちはヴィルマーと通して町長を紹介してもらった。この町にはギルドというものはないが、役所の窓口で短期の仕事のあっせんをしているのだと言う。
「とはいえ、あなた方のように外から来た方々は、最初の数回は役所から直接の依頼を出して、どの程度こなしてくれるのか審査をさせていただくのですが」
「それで構いません。単発でも良いので、お仕事をいただけますと幸いです」
「わかりました」
町長は受付担当の者を呼んできて、すぐにミリアとヘルマに依頼をした。この町では、基本的に依頼の方が多く、達成率が低いのだという話だ。それへ、ヴィルマーが「みな、それなりの仕事についているし、外部から人もそうそう流れて来ないからな。就職率が高いのは良いことなんだが、いろんな問題が先送りになっている」と説明をしてくれる。
「まずは、南側の森に入ったところにある薬草を摘んできていただけますか。本当はそれは女性たちの仕事なのですが、最近魔獣が時々出るようになって、そうそう簡単に行けなくなってしまって。護衛を毎回つけられれば良いのですが……」
とはいえ、出現する魔獣というのも本当に時々なので、護衛をつけずに摘みに行く、そして、そういう時に限って出てくる……ということが何度かあり、すっかりみな臆病になっているのだと言う。
「わかりました。お受けします」
ミリアとヘルマはそれから3日間ほど連続で、役所からの依頼をこなした。おかげで、5日目からはもう少し骨がある仕事を得ることが出来た。
「ああ、おかえりなさい。今日はどちらへ?」
夜、宿に戻るとたまたまクラウスが通りがかった。ヘルマが「今日は説明だけです。明日明後日と、ヤーナックから山越えをするまで護衛が欲しいと言う商人さんがいて」と返す。
「もしかしたら、戻って来たらもうみなさんはここを出た後になるでしょうか?」
ミリアの問いに、クラウスは「ううーん」と唸りながら、目を泳がせた。
「いえ、多分。多分、いると思いますよ。今回はちょっとだけ滞在を伸ばすつもりなので……」
「そうなのですね」
何故、目を泳がせるのだろうか。ミリアは不思議に思ったが、それについての質問はしなかった。彼らには彼らの予定があるのだろうし、と思ったからだ。
「クラウスさん、そういえば剣の手入れ用の……」
「ええ、今持ってきます」
ヘルマとクラウスのそのやりとりに、ミリアは「一体何を?」と尋ねた。
「剣の手入れをする羊毛が、この町ではあまり手に入らないんですよ。ヘルマさんが欲しいとおっしゃっていたので、お分けしますね」
「あっ、取りに行きます」
「そうですか。じゃあちょっと来ていただけますか?」
ヘルマはミリアに軽く頷いた。ミリアもそれへ頷き返して、一人で部屋に戻る。
「ふう……」
明日からは、旅の商人の護衛として往復4日間ヤーナックから出なければいけない。きっと、自分たちが来た時に現れた野盗が同じように姿を見せるのだろうと思う。商人たちが警戒をしているのも、どうやらこの町に来た時に同じように野盗に狙われたからなのだろう。
考えれば、あの時ヴィルマーたちは彼らを追わなかった。それがどういうことなのかをその時にはあまり考えていなかったが、何か問題があるのだろうかと今更思う。
(明日の朝、ヴィルマーさんが鍛錬を行っている時間に話を聞こう)
何にせよ、一度ヤーナックを出て戻って来て。その時にまだヴィルマーたちが滞在をしているのは少しありがたい。自分たちは多少慣れたものの、それでも新参者だ。ヴィルマーが町長に紹介をしてくれたから、彼の顔を立ててこうやって早く依頼を出してくれたのだと思う。そして、そんな自分たちはまだ町に馴染んでいないので、ヴィルマーたちがいなくなったこの町に戻って来ることが、なんとなく心細い。
(ああ、駄目ね。本当に。なんだか……)
旅を始めてからヘルマと2人であちこちに寄った。それはどれも、少し滞在をすれば次の場所にと移動をしていく過程の一つ。だが、この町には長く滞在をしなければいけない。
こうやって仕事を貰えるのも「外から来た人間」ではあっても「町にいる人間」と認められたからだ。しかし、未だに自分たちはまだこの町の者ではないのだ。
(それに、少しだけ)
ヴィルマーからの厚意に甘えすぎたと思う。だから、その庇護がなくなることが少しだけ怖いのだ。それはよろしくない。彼らがいないことが当たり前だということに慣れなければいけない。
(久しぶりに、人に甘えたせいか……)
半分は、ヴィルマーがあれもこれもと手を出してくれたせいだ。ありがたいと思いつつも、少しだけそれを失敗だと思う。
(甘える……か。そうね。きっと、甘えていたのね)
不思議なものだ。自分は、元婚約者には甘えることが出来なかったのに……そんなことを思い出して、ミリアは軽く首を傾げて「忘れよう」と呟く。それから、どっとベッドに仰向けで倒れた。心身ともにそう疲れてはいないが、明日のことを考えれば早めに眠った方が良いと思う。しかし、なんとなくぐるぐる考えてしまって、彼女は服を着替えることも忘れて天井をじっと見つめていた。
「何にせよ、戻ってきたら……まだいてくれるんだわ。それは、ありがたい……」
そうやっているうちにヘルマもまた戻って来て「お嬢様! すごく良い羊毛をもらったんです!」と大喜びの声をあげた。ミリアは「それはよかったわね」と小さく笑った。
「とはいえ、あなた方のように外から来た方々は、最初の数回は役所から直接の依頼を出して、どの程度こなしてくれるのか審査をさせていただくのですが」
「それで構いません。単発でも良いので、お仕事をいただけますと幸いです」
「わかりました」
町長は受付担当の者を呼んできて、すぐにミリアとヘルマに依頼をした。この町では、基本的に依頼の方が多く、達成率が低いのだという話だ。それへ、ヴィルマーが「みな、それなりの仕事についているし、外部から人もそうそう流れて来ないからな。就職率が高いのは良いことなんだが、いろんな問題が先送りになっている」と説明をしてくれる。
「まずは、南側の森に入ったところにある薬草を摘んできていただけますか。本当はそれは女性たちの仕事なのですが、最近魔獣が時々出るようになって、そうそう簡単に行けなくなってしまって。護衛を毎回つけられれば良いのですが……」
とはいえ、出現する魔獣というのも本当に時々なので、護衛をつけずに摘みに行く、そして、そういう時に限って出てくる……ということが何度かあり、すっかりみな臆病になっているのだと言う。
「わかりました。お受けします」
ミリアとヘルマはそれから3日間ほど連続で、役所からの依頼をこなした。おかげで、5日目からはもう少し骨がある仕事を得ることが出来た。
「ああ、おかえりなさい。今日はどちらへ?」
夜、宿に戻るとたまたまクラウスが通りがかった。ヘルマが「今日は説明だけです。明日明後日と、ヤーナックから山越えをするまで護衛が欲しいと言う商人さんがいて」と返す。
「もしかしたら、戻って来たらもうみなさんはここを出た後になるでしょうか?」
ミリアの問いに、クラウスは「ううーん」と唸りながら、目を泳がせた。
「いえ、多分。多分、いると思いますよ。今回はちょっとだけ滞在を伸ばすつもりなので……」
「そうなのですね」
何故、目を泳がせるのだろうか。ミリアは不思議に思ったが、それについての質問はしなかった。彼らには彼らの予定があるのだろうし、と思ったからだ。
「クラウスさん、そういえば剣の手入れ用の……」
「ええ、今持ってきます」
ヘルマとクラウスのそのやりとりに、ミリアは「一体何を?」と尋ねた。
「剣の手入れをする羊毛が、この町ではあまり手に入らないんですよ。ヘルマさんが欲しいとおっしゃっていたので、お分けしますね」
「あっ、取りに行きます」
「そうですか。じゃあちょっと来ていただけますか?」
ヘルマはミリアに軽く頷いた。ミリアもそれへ頷き返して、一人で部屋に戻る。
「ふう……」
明日からは、旅の商人の護衛として往復4日間ヤーナックから出なければいけない。きっと、自分たちが来た時に現れた野盗が同じように姿を見せるのだろうと思う。商人たちが警戒をしているのも、どうやらこの町に来た時に同じように野盗に狙われたからなのだろう。
考えれば、あの時ヴィルマーたちは彼らを追わなかった。それがどういうことなのかをその時にはあまり考えていなかったが、何か問題があるのだろうかと今更思う。
(明日の朝、ヴィルマーさんが鍛錬を行っている時間に話を聞こう)
何にせよ、一度ヤーナックを出て戻って来て。その時にまだヴィルマーたちが滞在をしているのは少しありがたい。自分たちは多少慣れたものの、それでも新参者だ。ヴィルマーが町長に紹介をしてくれたから、彼の顔を立ててこうやって早く依頼を出してくれたのだと思う。そして、そんな自分たちはまだ町に馴染んでいないので、ヴィルマーたちがいなくなったこの町に戻って来ることが、なんとなく心細い。
(ああ、駄目ね。本当に。なんだか……)
旅を始めてからヘルマと2人であちこちに寄った。それはどれも、少し滞在をすれば次の場所にと移動をしていく過程の一つ。だが、この町には長く滞在をしなければいけない。
こうやって仕事を貰えるのも「外から来た人間」ではあっても「町にいる人間」と認められたからだ。しかし、未だに自分たちはまだこの町の者ではないのだ。
(それに、少しだけ)
ヴィルマーからの厚意に甘えすぎたと思う。だから、その庇護がなくなることが少しだけ怖いのだ。それはよろしくない。彼らがいないことが当たり前だということに慣れなければいけない。
(久しぶりに、人に甘えたせいか……)
半分は、ヴィルマーがあれもこれもと手を出してくれたせいだ。ありがたいと思いつつも、少しだけそれを失敗だと思う。
(甘える……か。そうね。きっと、甘えていたのね)
不思議なものだ。自分は、元婚約者には甘えることが出来なかったのに……そんなことを思い出して、ミリアは軽く首を傾げて「忘れよう」と呟く。それから、どっとベッドに仰向けで倒れた。心身ともにそう疲れてはいないが、明日のことを考えれば早めに眠った方が良いと思う。しかし、なんとなくぐるぐる考えてしまって、彼女は服を着替えることも忘れて天井をじっと見つめていた。
「何にせよ、戻ってきたら……まだいてくれるんだわ。それは、ありがたい……」
そうやっているうちにヘルマもまた戻って来て「お嬢様! すごく良い羊毛をもらったんです!」と大喜びの声をあげた。ミリアは「それはよかったわね」と小さく笑った。