家族に虐げられた令嬢は王子様に見初められる
季節の花の香りが鼻腔をくすぐってきて嬉しくなるけれど、堪能している時間はなかった。
ソフィアはすぐに青年が隠れていた広場の木々の間へと進んだ。

もちろん、自分も人目につかないように慎重に動かないといけない。
もし誰かに自分の姿を見られれば、こじきと勘違いされて捕まってしまうかもしれない。

植木に身を隠しながらさっきまで青年がいた場所へ向かうが、そこにはもう誰の姿もなかった。
当然だ。

あれだけ走って逃げていたのだから、もう広場にはいないのかもしれない。
それでも諦めきれずにソフィアは植木に隠れつつ広場を一周してみることにした。

大きなお祝い事やパーティなどが開かれる街のシンボルでもある広場は、それほどの広さがある。
広場の中には籐のカゴを下げている買い物途中の婦人の姿や、商人たちの姿がある。

その中にも時々物騒な農具や武器を手にして街人の姿を見つけてはヒヤリとした気持ちになった。
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