家族に虐げられた令嬢は王子様に見初められる
ドキドキしてわくわくして、まるで本を読んでいるときのような感覚。
小部屋の中にいる自分には一生かかっても縁のない感情だと思っていた。

「そういえば、お礼がまだだったね。助けてくれてありがとう」
掃除道具入れから青年のくぐもった声が聞こえてくる。

「ううん。無事でよかった」
ソフィアは心からそう思った。

唯一ソフィアを楽しませてくれていた小部屋から見える広場で公開処刑なんて、ひどすぎる話だ。
「私はソフィア。あなたは?」

「僕はクリストフ。ソフィアか、いい名前だね」
名前を褒められたことも初めての経験だ。

ソフィアは驚いて目を丸くし、それから照れて頬が真っ赤に染まった。
「あ、あなたもとてもいい名前ね」

それが今のソフィアにとって最大限のお礼の言葉でもあった。
「それで、聞いてもいいかな? どうしてこんな部屋にいるのか」
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