家族に虐げられた令嬢は王子様に見初められる
クリストフと会話をするのはマルクが仕事をさぼっていねむりを初めたタイミングだった。
といってもクリストフは相変わらず掃除道具入れに入ったままだし、声も潜めている。

いつ、気まぐれに目を覚ますかわからないからだ。
「私にとっては普通の食事だけど、クリストフは違うの?」

「朝食はパンとミルクとスープ。それにフルーツも出るよ」
「ふふふっ嘘ばっかり。こじきなのにどうしてそんな立派な朝ごはんが用意できるっていうの?」

「……そうだった。ごめん、嘘をついたよ」
クリストフは時々こういう嘘をついてソフィアを笑わせてくれた。

それは1日のうちでほんの数分間しかない会話だったけれど、ソフィアの心を十分に潤わせてくれるものになった。
質問しても返事がないエミリーやマルクに話しかけ続けるよりもずっといい。

長年心の奥に蓄積されていた澱が徐々に浄化されていくような気さえする。
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