家族に虐げられた令嬢は王子様に見初められる
声を荒げるクリストフがいつの間にか掃除道具入れの中から出てきていた。
その姿を誰かに見られるわけにはいかない。

「なにを考えてるの? 掃除道具入れの中に戻ってよ」
「嫌だ。どうしてソフィアはここから逃げ出さないのか、納得できる答えが聞けるまでは戻らない」

「無茶いわないでよ」
こうしている間にもマルクが目を覚ましてしまうかもしれない。

異変に気がついた誰かが小部屋の様子を見に来るかもしれない。
ソフィアの背中にはさっきから冷や汗が流れっぱなしだ。

「ここは私の家なの。だからここにいることが一番なのよ」
精一杯の笑顔でそう伝えると、クリストフの表情が悲しげなものに変わった。

「……本当にそう思っているのなら、君はもうここから出ることはできないだろう」
クリストフは力の抜けきった声でそう言うと、自分から掃除道具入れへ戻っていったのだった。
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