傷心した私が一夜を共にしたのはエリート俺様同期~いつも言い合いばかりだったのに、独占欲強め、嫉妬心剥き出しな程に溺愛してくるのですが?~
「あ、はい! そうです。先日はありがとうございました」
「良いって。でも驚いたなぁ、同じ職場だったなんて」
「私もびっくりしました」
「えっと、キミ、名前は?」
「あ、すみません。本條 陽葵です。館林さんと同じ営業担当なので、よろしくお願いします」
「キミが本條さんか。社長から聞いていたんだよ、期待の星だって。こちらこそよろしくね」
「え? そうなんですか? でもそんな、期待される程では無いですよ」
「いやいや、女子の中ではなかなかのやり手だって聞いてるよ」

 この前の話から始まり、社長が私を褒めていたという話を聞いて驚いていると、気付けば周りからの視線を集めている事に気付く。

「本條さんと館林さんって会った事あったの?」
「あ、この前たまたま駅で」
「本條さんが落としたパスケースを拾ったんだよ」
「そうなんだ?」

 私たちが初対面で無かった事を知った周りが色々と聞いてくる中、

「うるせぇな、もう仕事始まってんだからいい加減話すの止めろよ」

 一人不機嫌さを滲ませた一之瀬が苛立った様子で私たちを一喝した。

「あ、ごめん……」
「何だよ一之瀬、今日はやけに機嫌悪いな?」
「いつもは一之瀬の方がなかなか仕事に取り掛からないくせにね」

 いつになく不機嫌な一之瀬を前にした私たちは渋々仕事に戻っていく。

 私は一之瀬が何故不機嫌なのか何となく想像がついているから謝ったのだけど、それくらいじゃ機嫌は治らないようだ。

 そんな一之瀬に館林さんは、

「うるさくしてすまない……。ところで、キミの名前、聞いてもいいかな?」

 うるさくした事を謝罪した上で、一之瀬に名前を尋ねた。

「……一之瀬 丞。アンタと同じく営業担当だ」
「キミが一之瀬くんか。社長から話を聞いてるよ。営業課のエースだって」
「そうっすか」
「良かったら色々教えて貰えると嬉しいな、よろしく」
「……ええ、いいっすよ。俺で良ければ。つーか、聞くなら俺に聞いてくださいね。それからくれぐれも仕事にかこつけて必要以上に本條(コイツ)に関わらないでくださいね」
「ちょっ、一之瀬! そんな言い方……」

 幸い周りは仕事を始めていて話は聞こえていないようだったのだけど、まさか一之瀬がここまで館林さんに敵意を向けるとは思わなかった私が思わず口を挟んでしまったけれど、それを無視して一之瀬は更に言葉を続けた。

「アンタ賢いんだから……その意味、分かるだろ?」――と。
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