さよなら尾崎くん
「さっきのはお母さん? 随分と深刻そうだったけど」
「ああ、みっともない場面を見せてしまった。実は母が宗教に嵌ってしまって、ずっと抜け出せない状況なんだ」
深刻な面持ちで語る内容に、ずっと耳を傾けていたが、要はこんなことだ。周囲の意見に流されやすい性格のお母さんは、三年ほど前に悪徳宗教の誘いに乗ってしまった。当初は少額だったお布施が、月を重ねるごとに増額していき、気がつくと家庭の資産が底をつくほど悲惨な状況になっていたそうだ。そんな母に愛想を尽かした父は家を飛び出し、現在は母息二人の母子家庭として生活しているそうだ。辟易とした様子で尾崎君が続ける。
「なにが神だ!もし居たとしても、なにかの目標に尽力して、結果として応えてくれる存在のはず。自分の意思を持たないで、なんでもかんでも神に縋る弱い人間なんて大嫌いだ!」
「尾崎君……」
家庭が崩壊したことを気の毒に思う一方で、普段彼が見せる気丈な振る舞いも、なんとなく分かる気がした。あれはきっと、強さではなく強がりなのだ。窮地に陥る母を正しく導きたい。けど、どうする事もできない。そんな彼が頼るたった一つの解決策が「カガク」なのではないか。意固地なまでに超常現象を嫌う理由も、常人には理解し難い、母の生き方が影響しているのかも、そんなことを思った。昂った気持ちを鎮めて、尾崎君が続ける。