さよなら尾崎くん
2、
冷たい秋風がそよぐ昼下がり。昼食を滞りなく済ませたクラスメイトが、教室のあちこちで会話を弾ませていた。その一角で、雑誌を片手に語気を強めて熱弁する生徒がいた。
「あのさ、これは心霊写真じゃなくて、樹木の模様が顔に似てるだけ。人間の心理って、空に浮かぶ雲や、その辺で見かける壁の染みに至るまで、無意識に人の顔を探してしまうらしいよ ?」
「これ絶対に顔だから」
「だから模様だってば。顔を意識するから顔に見えるんだ。そっちの画像だって、あからさまに合成じゃないか。ここの写真をカガクで検証すれば、幽霊なんて嘘っぱちだと分かるよ」
「幽霊はいるって」
「いや、いないから」
オカルト好きの生徒と、否定する側の押し問答。その様子を苦笑して眺める生徒たち。このクラスではごく見慣れた光景なのだが、騒ぎの発端は、いつも否定する側の尾崎快人(おざきかいと)だ。彼のオカルト嫌いは幽霊だけに留まらず、宇宙人や地底人に加え、未確認生物や都市伝説にまで及ぶ。どんなに奇怪な話でもカガク的手法で論破することを信条としているが、その反面、夢のない奴だと煙たがられる一面もある。だけど、僕にとっては憧れの存在なのだ。