トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜
「カットー!」

その瞬間、スタジオの空気が一気に変わった。

うっとり見とれていた皆は我に返り、急にざわつき始める。

「え?今のってまさか…」
「本当にしたの?」
「でも台本にはそこまで書いてなかったわよね?」
「うん。顔を寄せる、で終わってたと思う」

女性陣がヒソヒソとささやく中、チェックを終えた藤堂監督が嬉しそうな声を上げた。

「いやー、いい絵が撮れた。瞬のこの表情ときたら!キュンキュンだな、おい」

そう言ってから立ち上がると、ぐるりと皆を見渡す。

「えー、皆さん。安心してください。やってませんよ?」

…は?と皆は目が点になる。

「寸止めですよー。ほら、別角度のカメラで見てみると一目瞭然」

皆はワラワラと寄ってきてモニターを確認する。

瞬は沙奈の唇の2cm程手前で動きを止めていた。

「なーんだ!びっくりした」
「でも最高にキュンってなったね」
「ホント!私、息止めちゃってたわ」

分かるー、私もー!と女性スタッフは笑い合う。

「明日香ちゃん、いいアドバイスありがとう。おかげで最高の瞬が撮れたよ」

藤堂監督に声をかけられ、明日香は急いで手を振って否定する。

「いえ、そんな。私なんか何も…」

するとカツカツとヒールの音がして、監督と明日香の間に女性が立ちはだかった。

「藤堂監督!」

鋭い声で詰め寄ったのは、沙奈のマネージャーの堤だった。
相変わらず髪をシニヨンにまとめて黒のスーツに身を包んでいる。

「何もあんなふうに否定しなくてもいいじゃないですか。沙奈が柏木さんとキスシーンを演じたとなれば、一気に話題になります。沙奈の知名度が上がる絶好のチャンスだったのに!」

監督をそんなふうに責めるなんて、と明日香が驚いていると、藤堂監督は小さくため息をついてから低い声で話し出した。

「そんな話題性に頼って仕事するような女優は、すぐにダメになる。あんたは沙奈を一時的な金儲けの対象としか見ていないのか?」

なっ!?と堤は目を見開いて言葉を失っている。

「俺はこの映画で、ちゃんと沙奈を成長させてみせる。『柏木 瞬とキスシーンを演じた女優』ではなく『愛する夫と息子を守り抜く強くて優しい女性を演じ切った女優』としてね」

監督の言葉に堤はうつむいて身体を震わせていたが、やがて顔を上げて深々とお辞儀をした。

「よろしくお願い致します」
「はいよ」

そして監督は、何事もなかったかのように振り返って声を張る。

「よーし、チェックOK!休憩取るぞー」
「はーい!」

スタッフ達はワイワイと、ケータリングのテーブルに集まった。
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