トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜
第十章 苦悩
「よーい、スタート!」
いよいよ撮影が再開される。
まずは大樹の幼稚園の入園式のシーンから始まった。
可愛らしいセーラーの制服とベレー帽姿の健悟を、明日香は微笑ましく見守る。
隣に並ぶのは、淡いピンクのスーツに水色のコサージュをつけた沙奈。
「この衣装を着て大樹と楓は誘拐されるんだ。だから大樹は元気で愛くるしい印象、そして楓は、優しく健気な母親の印象を観る人の心に刻みつけたい。そのつもりで衣装も選んでくれ」
「分かりました」
監督の言葉を噛み締めながら、明日香は二人の衣装を選んだ。
だが、選ぶうちにどんどん悲しさが押し寄せてくる。
(幸せな家族にこんな試練が待ち受けているなんて…)
衣装を選ぶだけの自分ですら、こんなにも心が痛くなるのだ。
(きっと演じる本人達はもっと…)
そう思うと涙が込み上げてくる。
だが、そんなことでどうする!と己に喝を入れ、明日香は精一杯心を尽くして衣装を選んだ。
入園式の看板の前で、笑顔で記念写真を撮る健悟、沙奈、そして瞬。
スマートフォンで撮ったばかりの写真を見ながら沙奈と微笑み合っていた瞬は、次の瞬間、一気に顔つきを変えてスーツの内ポケットに手をやった。
沙奈が心得たように優しく頷く。
「ごめん」
瞬はすまなそうに沙奈にひと言告げると、その場を離れて仕事用の電話に出る。
「はい、風間です」
「風間、すぐに署に来れるか?」
「分かりました。向かいます」
手短に通話を終えると、沙奈と健悟のもとへ戻る。
「楓、悪い」
「大丈夫よ。3人で写真も撮れたし、あとは私がしっかり大樹のカメラマンをやっておくわね」
そう言うと、沙奈は健悟の頭に手を置く。
「大樹、パパはお仕事頑張ってくるって。だから大樹も、カッコよく入園式頑張ろうか」
「うん、わかった!」
瞬は少し悲しげに微笑んでから、大樹の前にしゃがみ込む。
「大樹、帰ったらたくさん話を聞かせてくれな」
「うん。パパもがんばってね!」
「ありがとう。大樹も頑張れ!」
「うん!」
瞬は笑顔で健悟の頭に手をやってから、立ち上がって沙奈を見つめる。
言葉を探していると、先に沙奈が口を開いた。
「大樹と二人で待ってるから。行ってらっしゃい。気をつけてね」
「ああ。行ってくる」
沙奈に力強く頷くと、瞬は気持ちを振り切るように背を向けて駆け出した。
いよいよ撮影が再開される。
まずは大樹の幼稚園の入園式のシーンから始まった。
可愛らしいセーラーの制服とベレー帽姿の健悟を、明日香は微笑ましく見守る。
隣に並ぶのは、淡いピンクのスーツに水色のコサージュをつけた沙奈。
「この衣装を着て大樹と楓は誘拐されるんだ。だから大樹は元気で愛くるしい印象、そして楓は、優しく健気な母親の印象を観る人の心に刻みつけたい。そのつもりで衣装も選んでくれ」
「分かりました」
監督の言葉を噛み締めながら、明日香は二人の衣装を選んだ。
だが、選ぶうちにどんどん悲しさが押し寄せてくる。
(幸せな家族にこんな試練が待ち受けているなんて…)
衣装を選ぶだけの自分ですら、こんなにも心が痛くなるのだ。
(きっと演じる本人達はもっと…)
そう思うと涙が込み上げてくる。
だが、そんなことでどうする!と己に喝を入れ、明日香は精一杯心を尽くして衣装を選んだ。
入園式の看板の前で、笑顔で記念写真を撮る健悟、沙奈、そして瞬。
スマートフォンで撮ったばかりの写真を見ながら沙奈と微笑み合っていた瞬は、次の瞬間、一気に顔つきを変えてスーツの内ポケットに手をやった。
沙奈が心得たように優しく頷く。
「ごめん」
瞬はすまなそうに沙奈にひと言告げると、その場を離れて仕事用の電話に出る。
「はい、風間です」
「風間、すぐに署に来れるか?」
「分かりました。向かいます」
手短に通話を終えると、沙奈と健悟のもとへ戻る。
「楓、悪い」
「大丈夫よ。3人で写真も撮れたし、あとは私がしっかり大樹のカメラマンをやっておくわね」
そう言うと、沙奈は健悟の頭に手を置く。
「大樹、パパはお仕事頑張ってくるって。だから大樹も、カッコよく入園式頑張ろうか」
「うん、わかった!」
瞬は少し悲しげに微笑んでから、大樹の前にしゃがみ込む。
「大樹、帰ったらたくさん話を聞かせてくれな」
「うん。パパもがんばってね!」
「ありがとう。大樹も頑張れ!」
「うん!」
瞬は笑顔で健悟の頭に手をやってから、立ち上がって沙奈を見つめる。
言葉を探していると、先に沙奈が口を開いた。
「大樹と二人で待ってるから。行ってらっしゃい。気をつけてね」
「ああ。行ってくる」
沙奈に力強く頷くと、瞬は気持ちを振り切るように背を向けて駆け出した。