トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜
「まずは乾杯しよう。お疲れ様!」

監督の車で連れて来られたのは、静かな高級料亭だった。

看板もなく、外から見ただけでは何の建物なのかも分からない。

「きっと『一見さんお断り』ってお店なのよね?」
「そうだろうな」

明日香と瞬は、美しい和服姿の女将に出迎えられる監督の後ろに続き、個室に通された。

「ようこそお越しくださいました」

乾杯の後、女将はにこやかに明日香達にも挨拶してくれる。

「ありがとうございます。あの、私、このようなお店に場違いではありませんか?」

明日香が恐る恐る尋ねると、女将は上品に口元を隠して笑う。

「まあ!こんな可愛らしいお嬢さん、いつでも大歓迎ですわ。むさ苦しいおじさんだけで来られると、私もげんなりしますもの」
「えっ?!おじさん…って」

明日香と瞬が視線を彷徨わせると、女将はまた楽しそうに笑った。

「そう、このおじさんよ。むさ苦しいでしょ?あーあ、私ったらどうしてこんな人と一緒になったのかしら」
「え?一緒って…。それはどういう?」

二人して眉根を寄せていると、ビールを飲んでいた監督が口を開く。

「おいおい、亭主に向かってなんてこと言うんだよ」
「て、亭主ー?!」

明日香は瞬と揃って仰け反る。

「ろくに家に寄りつかないのに、調子のいい時だけ亭主ヅラしないで頂きたいわ。撮影にかまけてまったく帰ってこないじゃないの。あら?今年お会いするのはこれが初めてじゃないかしら。これはこれは、明けましておめでとうございます」

皮肉を込めつつ優雅に頭を下げる女将を、明日香はマジマジと見つめる。

(こ、こんなお美しい方が、監督の奥様だったなんて)

「はいはい。亭主は元気に留守してますよ。それより早く食べさせてくれ」
「まったくもう。女房の顔見るよりお腹の心配なのね。ひどいでしょ?この人。撮影現場で偉そうなこと言ったら教えてね。私が飛んで行って引っぱたいてやるから」

明日香と瞬にそう言うと、女将はにこやかに微笑んでから料理を運んできてくれる。

綺麗な器に盛り付けられた料理は、どれもこれも手の込んだ美しい品ばかりだった。

「えっと、瞬くんと明日香ちゃん、でしたかしら?この店はね、芸能人だけでなく政界の重鎮も密談に使ったりするの。地下の駐車場から裏口を通って、誰にも会わずにこの個室に来られるわ。給仕するのも私だけ。だからいつでもいらしてね」

そう言って女将は、連絡先が書かれた名刺を二人に渡して退室していった。
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