トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜
「やれやれ。まったくもう…。車で来てること忘れて飲んだ挙げ句に、酔いつぶれるなんて。これだからむさ苦しいのよ、このおじさんは」

女将はそう言って笑うと、明日香と瞬に詫びる。

「ごめんなさいね、帰りはお送り出来なくて。この人はこのまましばらく寝かせておいて、あとで私が運転して帰るわ。お二人にはタクシーを呼ぶわね。ちょっと待っててくれる?」
「ありがとうございます。あの、タクシーは2台呼んで頂けますか?」

え?と明日香を振り返ると、女将は小さく微笑んで頷いた。

やがて地下駐車場に、2台のタクシーが到着する。

「ここのタクシー会社も守秘義務は徹底してるから、安心して」
「ありがとうございます。今夜はご馳走様でした。とても美味しかったです」

女将に礼を言って、瞬は最後に明日香と向き合った。

「じゃあ、また現場で」
「うん。ゆっくり休んでね」
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい」

瞬の乗ったタクシーが見えなくなると、明日香は女将に頭を下げた。

「今夜は本当にありがとうございました。美味しいお料理だけでなく、色々お気遣い頂いて」
「ううん。私もお二人に会えて嬉しかったわ。明日香ちゃん、あなたは強い人ね」

突然の言葉に、明日香はキョトンとする。

「え?それは、どういう意味でしょうか」
「だって普通の女の子なら、好きな人とずっと一緒にいたいと思うものでしょう?愛してるって言われて抱きしめてもらいたい。それが出来ない人なんて、まっぴらごめん。先行き不安で、つき合うのも時間の無駄だわって、そう思うものよ。でも明日香ちゃんは、自分がして欲しいことなんて何も考えていない。心配そうに労るように、そっと優しく相手を見守ってる。どうやったらそんなことが出来るのかしら」
「は?あの…」

明日香が目をしばたかせると、女将はクスッと笑う。

「ピュアな明日香ちゃんに、いつか最高の幸せが訪れますように。さ、ほら乗って」
「あ、はい」

促されて明日香はタクシーに乗り込む。

「色々と、本当にありがとうございました」
「いいえ。またいつでも来てちょうだいね」
「はい、また伺います」

女将は優しく明日香に頷いてみせた。
< 66 / 118 >

この作品をシェア

pagetop