トップアイドルの恋 Season2〜想いを遂げるその日まで〜
「カットー!」

助監督の声が響くが、皆は呆然としたまま静まり返っていた。

台本には、仮の名前として別の名前が書かれていたのだ。
だが本番でおばあさん役の女優が口にしたのは、誰も予想していなかった瞬の相棒の名前。

一体どういうことなのか?
この先どうなってしまうのか?
どこまで過酷な運命に立ち向かわなければいけないのか?

重苦しい雰囲気に、瞬は一歩も動けないままだった。

「瞬。次のシーンの前に休憩取ろうか?」

藤堂監督が気遣うように声をかける。

「いえ、このまま行きます」
「そうか。分かった」

そう言って監督は、次のシーンの台本を渡した。

スタッフが黙々と準備を進め、そのまま大詰めのシーンの撮影となる。
真犯人と対峙する、いや、親友だと思っていた裏切り者と対峙する辛いシーンの撮影。

「本番行きます。よーい、スタート!」

リハーサルもなく、いきなり本番となった。

(瞬くん!)

明日香は祈るように瞬を見つめる。

先程と同じ更地の前で、おばあさんの代わりに須賀が瞬の隣に立ち、撮影が始まった。

「どうしたんだ?こんなところに呼び出したりして。ここはどこなんだ?」

なんてことない口調で須賀が言うと、瞬は重い口を開いた。

「お前の故郷だ」
「なっ?!」

目を見開いた須賀を、瞬は黙って見つめる。

やがてふっと息をもらすと、須賀は更地に目を向けた。

「なかなか買い手がつかないんだよ。縁起が悪い土地だってな。俺にとっては幸せが詰まった場所なのに」
「…本当にお前が事件に関わっているのか?」
「ああ、そうだよ」
「楓と大樹の誘拐も、お前が企んだのか?」
「ああ、そうだ」
「爆弾のスイッチを押したのも?」
「ああ」
「楓を…、楓の命を奪ったのもお前だって言うのか?!」
「…ああ、そうだ」

瞬は須賀に掴みかかる。

「嘘だ。嘘だと言え!」
「嘘じゃない。俺は親父を死に追いやった男に復讐しようとしたんだ。俺達の幸せを奪っておきながら、自分はのうのうと暮らし、偉そうにふんぞり返って警視総監にまでなったあの男にな」

須賀は瞬の手を振りほどくと、不気味に口角を上げて続ける。

「信じられるか?正義を振りかざす人間が人を殺し、一家の幸せを奪ったのに、自分は金も地位も名誉も手に入れている。何の罪もない親父とおふくろを追い詰めたのに、どうして許されるんだ?正義ってなんなんだよ。悪ってなんだ?俺があいつに復讐するのは間違っているとでも言うのかよ。あいつが野放しにされる世界に、真実なんかあってたまるか!」

息を切らせて一気にまくし立てる須賀に、今まで見てきた頼りになる親友の面影はない。

瞬はグッと拳を握りしめた。

「だから楓と大樹を誘拐したのか?お前の復讐の為なら、犠牲になっても仕方ないって言うのかよ!」
「…それは、悪かった。あの時、梨本が全てを打ち明けそうになって、あらかじめマントに仕掛けておいた爆弾のスイッチを押したんだ。計算では、そこまでの威力はないはずだった。だが結果的に、楓さんは…」
「ふざけるな!」

瞬は須賀の胸元を掴み上げると、そのまま地面に叩きつけた。
顔を打ちつけ、唇の端を切った須賀が、手で口を拭って顔を上げた時だった。

カチャリと音がして、瞬が須賀の額に銃口を突きつけた。

(瞬くん!)

明日香は息を呑んで目を見開く。

鬼気迫る瞬の表情は、その場にいる全員を凍りつかせた。

「あいつが野放しにされる世界に真実なんかあってたまるかだと?こっちのセリフだ。愛する妻を、何の罪もない優しい楓を、大樹のかけがえのない母親を殺されて、犯人のお前が生き延びる世界に、俺の真実だってないんだよ!」

グッと瞬が引き金を引く指に力を込める。

(ダメ!瞬くん!)

明日香は涙をほとばしらせながら心の中で叫ぶ。

瞬が一気に引き金を引き、覚悟を決めた須賀がギュッと目を閉じた。

パン!

乾いた音が響き、明日香はハッと息を呑む。

恐る恐る視線を上げると、銃を握る瞬の右手は高く空に向けられていた。

(…瞬くん!)

両手で口元を覆い、明日香は固唾を呑んで瞬を見つめる。

「…俺はお前と同じにはならない。楓が愛してくれた俺のままで生きていく。それが俺の正義、俺の真実だ」

ゆっくりと低く須賀に告げる瞬に、明日香は涙が止まらなかった。

(瞬くん、瞬くん…!)

やがて須賀はがっくりとうなだれ、瞬は静かに右手を下ろした。
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