《マンガシナリオ》空から推しが降ってきた
第4話 推しが「彼女になって」と言ってきて
◯学校、体育館(昼)
林間学校から数週間後。
体育館に声援が飛ぶ。
バスケットボールの試合が行われている。
今日は球技大会。
結翔が選手として出場していて、華麗なドリブルで相手を抜いていく。
ありさ「すごいね、水瀬くん!」
咲茉「う…うん!」
観客席から応援する体操服姿のありさと咲茉。
バスケをする結翔の姿に惚れ惚れする咲茉。
ブザービーターで結翔が3ポイントシュートを決める。
クラスメイトたち「「キャーーー!!!!」」
女の子たちからの甲高い歓声。
結翔の活躍で逆転勝利した2年1組は、男子バスケットボールで優勝する。
ありさ「見た!?最後の3ポイントシュート!」
咲茉「うん!すごかった!」
ありさ「あたしたちが出場したバレーボールも含めて、ウチのクラス全然ダメダメだったけど、男子バスケだけでも優勝できたら十分だよね」
咲茉「もちろん!それに結翔くんいなかったら、きっとバスケも負けてただろうし」
チームメイトとハイタッチを交わす結翔を見つめる咲茉。
ありさ「それにしても、試合中ずっと水瀬くんがミナトと被って見えたんだよね」
咲茉「…えぇ!?」
ありさ「ミナトって、運動神経抜群でなんでもスポーツできるでしょ?その中でも、一番バスケが得意だって」
咲茉(…たしかに。わたしもその話は聞いたことがある)
結翔に目を向けるありさ。
ありさ「アイドルじゃなかったら、将来はバスケット選手になりたかったみたいだよ?だから余計に、ミナトがバスケしてたらあんな感じなのかなって思っちゃった」
咲茉「…ハハハハ。そうだったらいいね…」
苦笑いを浮かべる咲茉。
咲茉(さすが…ありさ!…鋭いっ!)
◯学校、校門(放課後)
数日後。
委員会で残っていた咲茉は、いつもより遅く学校を出る。
?「咲茉!」
校門を出たとき、だれかに呼び止められる咲茉。
振り返ると、茶髪で短髪の他校の制服を着た男の子が立っている。
それを見て固まる咲茉。
咲茉「りょ…、亮くん…?」
咲茉に声をかけたのは、去年数ヶ月だけ付き合っていた元カレの亮。
咲茉「…どうしたの、こんなところまできて」
亮「咲茉と連絡つかなかったから、こうして直接会いにきてみた…♪」
悪びれもなく、ペロッと舌を出して微笑む亮。
咲茉(…当たり前だ。亮くんの連絡先は別れてすぐにブロックしたんだから)
咲茉はそっけなく背を向ける。
亮「…おいおい、咲茉!せっかく会いにきたのにそっけないな〜」
咲茉「…なにしにきたの。用がないなら帰ってよ」
亮「いや〜。咲茉どうしてっかな〜?って思ったら、久々に会いたくなって。このあと、どっか遊びに行かない?」
ピタリと足を止める咲茉。
そして、亮を睨みつけるようにして振り返る。
咲茉「行くわけないに決まってるじゃん!なに言ってるの!?」
亮「…おっ、こっわ〜!そんなのだと、彼氏に嫌われるぞ〜。あっ、もしかして彼氏いない感じ?」
煽ってくる亮に苛立つ咲茉。
ぐっと我慢して、亮に背中を向ける。
亮「えっ、なになに?図星〜!?まさか、まだオレに未練あるとか?」
咲茉「そんなわけないでしょ!!」
声を荒げる咲茉。
キッと亮を睨みつける。
亮「まあ、過去のことは水に流せよ。オレはあれからいろんな女と付き合ったけど、やっぱり一番は咲茉だな〜って思って――」
咲茉「ついてこないで…!いい加減、もう帰ってよ!」
しつこく咲茉のあとをついてくる亮。
亮「そんなに怒んなって〜。今度は同じことは繰り返さないからさ。オレら、もう一度やり直そうぜ」
咲茉の腕をつかむ亮。
咲茉「…離して!」
振り払おうとする咲茉。
しかし、力が強くて振り払えない。
結翔「そこでなにしてるの」
そのとき、後ろから結翔の声が聞こえ、振り返る咲茉と亮。
亮は目を細めて結翔を見る。
亮「だれだ…お前?」
亮に睨まれるも、堂々と咲茉と亮のもとへ歩み寄る結翔。
結翔「あんたこそ、だれ?」
亮を睨みつける結翔。
咲茉「ゆ…、結翔くん!」
結翔を見上げる咲茉。
亮「オレたち、前に付き合ってたんだけど?元カレと元カノが会ってなにが悪いんだよ。わかったなら、部外者はさっさと――」
結翔「元カレだかなんだか知らないけど、俺の彼女に気安く触るな」
その言葉に、はっとして驚く咲茉。
結翔は、咲茉の腕をつかんでいた亮の腕をつかむと振り払う。
結翔に振り払われ、その反動で少しよろける亮。
亮「…は?彼氏?」
咲茉「ちっ…違うの――」
結翔と亮の間に入ろうとする咲茉。
その咲茉を抱き寄せる結翔。
結翔「俺たち付き合ってるから。わかったなら、部外者はさっさと消えな」
結翔に言われ、ぐうの音も出ない亮。
悔しそうに唇を噛む。
咲茉(結翔くんっ…、どうしてそんな嘘を)
驚く咲茉。
結翔に抱き寄せられながら、そっと結翔の顔を見上げる。
威嚇するように、まっすぐに亮を見る結翔。
すると、ふと亮が含み笑いする。
亮「…ハッ!“彼氏”〜?咲茉、お前シュミ悪くなったな〜」
咲茉「なっ…!なに言って――」
亮「だって、こんな地味で陰キャな男が“彼氏”って!ウケるだろ〜!」
バカにするように、お腹を抱えてケラケラと笑う亮。
亮「オレに振られてから彼氏ができないからって、こんなだっせ〜男しか捕まえられなかったわけ?見る目ないんじゃね?それとも、だれでもよかった感じ?」
歯を食いしばる咲茉。
亮は笑いながら、結翔に近づく。
亮「よう、メガネくん。ちゃんと見えてますか〜?その感じだと、女からモテた経験ねぇだろ?」
煽るように、亮は結翔のメガネに触れる。
亮「まあ咲茉も咲茉だし、お互いシュミが合っていいんじゃ――」
そのとき、メガネを触っていた亮の手を結翔が振り払う。
その反動で、吹っ飛ぶメガネ。
驚いた亮の胸ぐらをつかみ、結翔は亮を壁に押しつける。
結翔「黙って聞いておけば、好き勝手言いやがって…」
結翔の低い声。
結翔の圧に、顔をこわばらせる亮。
亮「な、なんだよ…!オレは、本当のことを言ってるだけだろ…!」
結翔「俺のことはなんと言おうとかまわないけど、咲茉のことを悪く言うのだけは許さない」
亮を睨みつけながら前髪をかき上げる結翔。
結翔に睨まれ、顔が青ざめる亮。
亮「ひっ…ひぃぃぃ!」
結翔に圧倒され、亮は情けない悲鳴を上げる。
結翔「今度、咲茉のこと悪く言ってみろ。そのときは容赦しねぇから」
結翔は、突き飛ばすようにして亮の胸ぐらを離す。
亮「べ…べつに、もうこねぇよ!咲茉がいなくたって、女には困ってねぇんだし…!!」
亮は捨て台詞を吐くと、逃げるようにして帰っていった。
その後ろ姿を睨みつける結翔。
咲茉「結翔くん…」
咲茉は惚れ惚れと結翔を見つめていた。
亮がいなくなったのを確認すると、咲茉のほうを振り返る。
結翔「えまちゃん、なにもされてない…!?」
咲茉「…う、うん!わたしは平気」
結翔「よかった…。えまちゃんが絡まれてるところを見かけたから、思わず間に入っちゃったけど…。追い返して大丈夫だった…?」
咲茉「それはもちろん…!わたしだけじゃどうにもならなかったけど、結翔くんがきてくれて助かったよ!」
咲茉は、落ちていたメガネを拾い上げると結翔に手渡す。
結翔「ありがとう」
結翔はメガネをかけると、かき上げていた前髪を下ろす。
いつもの地味な結翔に戻る。
咲茉「…だけど、素顔さらしちゃっても大丈夫だったの?」
結翔「ああ…、メガネ吹っ飛んじゃったしね。でも頭にきて、そんなこと冷静に考えてる場合じゃなかった」
ハハハと軽く笑ってみせる結翔。
結翔「それにあの感じだと、ビビってなにも覚えてないんじゃないかな」
咲茉「たしかにそうだねっ」
情けなく逃げ帰った亮の後ろ姿を思い出して、顔を見合わせてクスクスと笑い合う結翔と咲茉。
咲茉は先程のミナトの姿で亮を圧倒した結翔のことを思い出す。
結翔『黙って聞いておけば、好き勝手言いやがって…』
結翔『俺のことはなんと言おうとかまわないけど、咲茉のことを悪く言うのだけは許さない』
結翔『今度、咲茉のこと悪く言ってみろ。そのときは容赦しねぇから』
顔がぽっと赤くなる咲茉。
咲茉「…そういえば、結翔くん。さっきわたしのこと…」
恥ずかしそうに口ごもる咲茉。
それを見て、はっとする結翔。
結翔「…あっ、ごめん。えまちゃんのこと『彼女』って言っちゃったよね。ああ言わないと、引き下がってくれないと思ったらから…つい。ほんとごめんね」
結翔は咲茉に平謝りする。
咲茉「そ…そんな!謝ることじゃないから、頭上げて…!」
戸惑う咲茉。
内心はうれしかった。
さっきのことを思い出す咲茉。
結翔『元カレだかなんだか知らないけど、俺の彼女に気安く触るな』
結翔『俺たち付き合ってるから。わかったなら、部外者はさっさと消えな』
咲茉(亮くんを追い払うために出た言葉だったとはいえ、…うれしかったな。推しに『彼女』だなんて言われるなんて、まるで夢みたい。それに『咲茉』って呼んでくれた)
ドキドキする胸にそっと手を当てる咲茉。
◯前述の続き、咲茉の家、結翔の部屋(夜)
コンコン!
結翔の部屋のドアをノックする咲茉。
咲茉「結翔くん、入るよ〜」
咲茉が部屋に入ると、結翔がベッドの上で仰向けになっていた。
咲茉「…ごめんっ。寝てた…?」
結翔「ううん。ちょっと考え事してただけ」
咲茉「そっか」
ベッドから起き上がる結翔。
結翔「どうかした?」
咲茉「おいしいさくらんぼ、たくさんもらったんから、結翔くんにもってお母さんが」
咲茉は、ガラスの小皿に盛られたさくらんぼを結翔の部屋のテーブルの上に置く。
結翔「ありがとう」
咲茉「じゃあ、それだけだから」
結翔「待って」
部屋から出ていこうとする咲茉を呼び止める結翔。
キョトンとして振り返る咲茉。
結翔「1人じゃ食べきれないから、えまちゃんも手伝って」
にこりと笑う結翔。
結翔と咲茉は、小さな丸いテーブルを囲むように向かい合わせになってカーペットの上に座る。
結翔「うん!おいしいね、このさくらんぼ」
咲茉「お母さんの伯父さんが毎年送ってきてくれるの。わたしも小さいときから大好きで」
さくらんぼを食べる結翔と咲茉。
ふと、結翔がさくらんぼを食べる手を止める。
結翔「それにしても、あの男…失礼だったな。思い出したら余計に腹が立ってきた」
亮のことを思い出し、腹を立てる結翔。
咲茉「なんか…結翔くんまで巻き込んじゃって、ごめんね」
結翔「俺はべつにかまわないよ。でも、どうしてえまちゃんみたいなコが…あんな男と」
咲茉「…う〜ん。わたしにとっても、忘れたくなるくらいの黒歴史…」
苦笑いを浮かべる咲茉。
咲茉「ありさや周りの友達にも彼氏ができ始めたころにちょうど亮くんから告白されて、わたしも初めての彼氏で浮かれちゃってたんだと思う…」
咲茉は、亮とのことを軽く結翔に話す。
1年前、何回かグループでカラオケに行ったことのある亮から告白され、付き合うことになった咲茉。
他校だったということもあり、頻繁に会うような仲ではなく、徐々に連絡も少なくなってきた――付き合って3ヶ月くらいの頃。
街中で、亮が知らない女の子と手を繋いでる場面に遭遇する。
咲茉に気づくも、亮は無視。
その夜、【好きなコができたから別れよう】と咲茉にメッセージが届く。
浮気されていたことに腹を立てるも、亮とはキスやなにかをされたわけでもなかったため、咲茉はそのままあっさり別れることにした。
咲茉の話を静かに聞いていた結翔が口を開く。
結翔「サイテーなクソ野郎だね」
咲茉「…うん。あんなのと一度でも付き合ってたなんて、…一生の恥」
テンションが下がり、顔が青ざめる咲茉。
咲茉「でも、亮くんのことなんてすぐに忘れることができたの。それは、結翔くんのおかげなんだ」
結翔「…え、俺?」
キョトンとして、自分を指さす結翔。
咲茉「ありさがA*STERについて熱弁してくれて。『いい曲ばっかりだから絶対に聞いて!』って言って、わたしにA*STERのアルバムを押しつけてきて」
結翔「うわ〜、妹尾さんすごいね」
咲茉「うん。せっかく借りたからと思って聞いてみたら、本当にどれもいい曲ばかりで。そこから、わたしもA*STERにハマっちゃったんだ」
結翔「へ〜、そうだったんだ。なんかうれしいなぁ」
咲茉「それで、A*STERが出演する歌番組もチェックするようになって」
当時のことを頭の中で思い返し、懐かしむ咲茉。
咲茉(テレビに映るミナトくんの笑顔に励まされて、嫌なことも全部吹っ飛んじゃったんだよね。それが、わたしがミナトくん推しになるきっかけだったなぁ)
頬杖をつき、思い返す咲茉のことをやさしいまなざしで見つめる結翔。
咲茉(その推しが同じ家に住むことになって、こうして同じ部屋でさくらんぼを食べてるだなんて、A*STERを好きになった頃の去年のわたしが知ったらびっくりするだろうな)
そんなことを想像して、少しだけ微笑む咲茉。
結翔「それで、えまちゃんはルキ推しになったんだ」
咲茉「…えっ!?…あ、う…うん」
結翔に突然声をかけられて、驚く咲茉。
また『ミナト推し』とは言い出せず、ぎこちなく返事をする。
結翔「ねぇ、えまちゃん」
咲茉「ん?」
結翔「ルキ推しのえまちゃんにこんなこと頼むのは失礼かもしれないけど…」
咲茉「…?」
首をかしげる咲茉。
テーブルの向かい側から身を乗り出す結翔。
結翔「俺の彼女になってくれないかな」
予想もしていなかった結翔の言葉に、さくらんぼを食べていた咲茉の口元からヘタがぽとりと落ちる。
咲茉(……え…)
目をパチクリとさせる咲茉。
咲茉(……えっ…)
ごくりとさくらんぼを飲み込む咲茉。
咲茉「……えっーーー!?」
目を丸くして、絶叫する咲茉。
と同時にむせる。
結翔「えまちゃん…大丈夫!?」
咲茉「…ケホッ、ケホッ!種まで飲んじゃった…」
胸をたたく咲茉。
水を飲んで、いったん落ち着く。
結翔「ごめんね、驚かせちゃって」
咲茉(…ほんと、びっくりだよ。わたしがミナトくんの彼女…?ないない、絶対ない。きっとなにかの聞き間違い)
自分に言い聞かせる咲茉。
咲茉「…もうっ、結翔くんからかわないで」
結翔「べつに…からかってるわけじゃないんだけど」
咲茉「だって、A*STERは恋愛禁止でしょ…?」
結翔「あ…うん、そうなんだけど…。正確には、『彼女役を演じてほしい』んだよね」
それを聞いて、キョトンと首をかしげる咲茉。
咲茉「彼女役…というと?」
結翔「実は、今度映画の撮影があるんだ。来年の冬公開だからまだ詳しいことは話せないんだけど…。それで、俺は彼女がいる青年役を演じることになって――」
しかし、これまでA*STERの仕事ばかりで恋愛経験の少ない結翔。
なかなか役になりきることができていなかった。
結翔「だから、しばらくの間だけでいいから、俺の彼女の役を演じてくれないかな…?そうしたら、なにかヒントをつかめそうなんだけど…」
咲茉「もしかして結翔くん、さっきベッドに寝転がって考え事してたっていうのも――」
結翔「うん。どうしたらうまくいくかなって、役のことを考えてた」
恥ずかしそうに微笑む結翔。
なんでも完璧にこなすと思っていた結翔の完璧じゃないところを知って、思わず母性本能をくすぐられる咲茉。
結翔「…どうかな?無理にとは言わないんだけど…」
咲茉「そんな…、わ…わたしなんかでいいの?」
結翔「頼めるの、えまちゃんしかいないんだよね」
怯えた小動物のような目で、咲茉を見つめる結翔。
その姿に、胸がキュンとなる咲茉。
咲茉「ゆ…、結翔くんが困ってるのなら…」
結翔「…ほんと!?いいの!?」
緊張で、無言でカクカクと首を縦に振る咲茉。
安心したように笑みをこぼす結翔。
結翔「よかった〜…。えまちゃんってルキ推しだから、俺の彼女役なんて絶対に断られると思ったらから」
安堵から脱力する結翔。
咲茉(たとえ役のための演技とはいえ、推し本人から『彼女になって』なんて頼まれるなんて〜…!)
ドキドキする咲茉。
結翔「…じゃあ、そういうことで。よろしくね、えまちゃん」
咲茉「う、うん!」
緊張しながら返事をする咲茉。
◯咲茉の家、脱衣所兼洗面所(朝)
次の日。
咲茉が歯磨きをしていると、パタパタと足音が聞こえてくる。
やってきたのは結翔。
結翔「おはよう、えまちゃん」
咲茉「結翔くん、おはよう」
結翔は、鏡の前に立って歯磨きをする咲茉を後ろから包み込むようにして、自分の歯ブラシに歯磨き粉をつける。
後ろから抱きしめられているような姿が鏡に映り、頬を赤くして結翔のほうを振り返る咲茉。
咲茉「ゆ…、結翔くん…!」
結翔「そんなに気にすることじゃないでしょ?だって俺たち、付き合ってるんだから」
結翔の憎めない笑顔にドキッとした咲茉は恥ずかしそうに顔を背ける。
それからというもの、人目を避けて手を繋いだりと、結翔とのヒミツのカップルごっこにドキドキしっぱなしの咲茉。
◯学校、2年1組の教室(昼休み)
そんなある日。
お弁当を食べ終わった咲茉とありさは、窓から外を眺めている。
ありさ「そうだ、咲茉」
咲茉「ん?どうかした?」
ありさ「あたし、咲茉に言わなくちゃいけないことがあるんだよね」
咲茉「言わなくちゃいけないこと?」
首をかしげる咲茉。
ありさ「実はあたし、水瀬くんのことが好きになっちゃったみたいなんだよね」
恥ずかしそうにはにかむありさ。
それを聞いて、固まる咲茉。
咲茉(……えっ…)
林間学校から数週間後。
体育館に声援が飛ぶ。
バスケットボールの試合が行われている。
今日は球技大会。
結翔が選手として出場していて、華麗なドリブルで相手を抜いていく。
ありさ「すごいね、水瀬くん!」
咲茉「う…うん!」
観客席から応援する体操服姿のありさと咲茉。
バスケをする結翔の姿に惚れ惚れする咲茉。
ブザービーターで結翔が3ポイントシュートを決める。
クラスメイトたち「「キャーーー!!!!」」
女の子たちからの甲高い歓声。
結翔の活躍で逆転勝利した2年1組は、男子バスケットボールで優勝する。
ありさ「見た!?最後の3ポイントシュート!」
咲茉「うん!すごかった!」
ありさ「あたしたちが出場したバレーボールも含めて、ウチのクラス全然ダメダメだったけど、男子バスケだけでも優勝できたら十分だよね」
咲茉「もちろん!それに結翔くんいなかったら、きっとバスケも負けてただろうし」
チームメイトとハイタッチを交わす結翔を見つめる咲茉。
ありさ「それにしても、試合中ずっと水瀬くんがミナトと被って見えたんだよね」
咲茉「…えぇ!?」
ありさ「ミナトって、運動神経抜群でなんでもスポーツできるでしょ?その中でも、一番バスケが得意だって」
咲茉(…たしかに。わたしもその話は聞いたことがある)
結翔に目を向けるありさ。
ありさ「アイドルじゃなかったら、将来はバスケット選手になりたかったみたいだよ?だから余計に、ミナトがバスケしてたらあんな感じなのかなって思っちゃった」
咲茉「…ハハハハ。そうだったらいいね…」
苦笑いを浮かべる咲茉。
咲茉(さすが…ありさ!…鋭いっ!)
◯学校、校門(放課後)
数日後。
委員会で残っていた咲茉は、いつもより遅く学校を出る。
?「咲茉!」
校門を出たとき、だれかに呼び止められる咲茉。
振り返ると、茶髪で短髪の他校の制服を着た男の子が立っている。
それを見て固まる咲茉。
咲茉「りょ…、亮くん…?」
咲茉に声をかけたのは、去年数ヶ月だけ付き合っていた元カレの亮。
咲茉「…どうしたの、こんなところまできて」
亮「咲茉と連絡つかなかったから、こうして直接会いにきてみた…♪」
悪びれもなく、ペロッと舌を出して微笑む亮。
咲茉(…当たり前だ。亮くんの連絡先は別れてすぐにブロックしたんだから)
咲茉はそっけなく背を向ける。
亮「…おいおい、咲茉!せっかく会いにきたのにそっけないな〜」
咲茉「…なにしにきたの。用がないなら帰ってよ」
亮「いや〜。咲茉どうしてっかな〜?って思ったら、久々に会いたくなって。このあと、どっか遊びに行かない?」
ピタリと足を止める咲茉。
そして、亮を睨みつけるようにして振り返る。
咲茉「行くわけないに決まってるじゃん!なに言ってるの!?」
亮「…おっ、こっわ〜!そんなのだと、彼氏に嫌われるぞ〜。あっ、もしかして彼氏いない感じ?」
煽ってくる亮に苛立つ咲茉。
ぐっと我慢して、亮に背中を向ける。
亮「えっ、なになに?図星〜!?まさか、まだオレに未練あるとか?」
咲茉「そんなわけないでしょ!!」
声を荒げる咲茉。
キッと亮を睨みつける。
亮「まあ、過去のことは水に流せよ。オレはあれからいろんな女と付き合ったけど、やっぱり一番は咲茉だな〜って思って――」
咲茉「ついてこないで…!いい加減、もう帰ってよ!」
しつこく咲茉のあとをついてくる亮。
亮「そんなに怒んなって〜。今度は同じことは繰り返さないからさ。オレら、もう一度やり直そうぜ」
咲茉の腕をつかむ亮。
咲茉「…離して!」
振り払おうとする咲茉。
しかし、力が強くて振り払えない。
結翔「そこでなにしてるの」
そのとき、後ろから結翔の声が聞こえ、振り返る咲茉と亮。
亮は目を細めて結翔を見る。
亮「だれだ…お前?」
亮に睨まれるも、堂々と咲茉と亮のもとへ歩み寄る結翔。
結翔「あんたこそ、だれ?」
亮を睨みつける結翔。
咲茉「ゆ…、結翔くん!」
結翔を見上げる咲茉。
亮「オレたち、前に付き合ってたんだけど?元カレと元カノが会ってなにが悪いんだよ。わかったなら、部外者はさっさと――」
結翔「元カレだかなんだか知らないけど、俺の彼女に気安く触るな」
その言葉に、はっとして驚く咲茉。
結翔は、咲茉の腕をつかんでいた亮の腕をつかむと振り払う。
結翔に振り払われ、その反動で少しよろける亮。
亮「…は?彼氏?」
咲茉「ちっ…違うの――」
結翔と亮の間に入ろうとする咲茉。
その咲茉を抱き寄せる結翔。
結翔「俺たち付き合ってるから。わかったなら、部外者はさっさと消えな」
結翔に言われ、ぐうの音も出ない亮。
悔しそうに唇を噛む。
咲茉(結翔くんっ…、どうしてそんな嘘を)
驚く咲茉。
結翔に抱き寄せられながら、そっと結翔の顔を見上げる。
威嚇するように、まっすぐに亮を見る結翔。
すると、ふと亮が含み笑いする。
亮「…ハッ!“彼氏”〜?咲茉、お前シュミ悪くなったな〜」
咲茉「なっ…!なに言って――」
亮「だって、こんな地味で陰キャな男が“彼氏”って!ウケるだろ〜!」
バカにするように、お腹を抱えてケラケラと笑う亮。
亮「オレに振られてから彼氏ができないからって、こんなだっせ〜男しか捕まえられなかったわけ?見る目ないんじゃね?それとも、だれでもよかった感じ?」
歯を食いしばる咲茉。
亮は笑いながら、結翔に近づく。
亮「よう、メガネくん。ちゃんと見えてますか〜?その感じだと、女からモテた経験ねぇだろ?」
煽るように、亮は結翔のメガネに触れる。
亮「まあ咲茉も咲茉だし、お互いシュミが合っていいんじゃ――」
そのとき、メガネを触っていた亮の手を結翔が振り払う。
その反動で、吹っ飛ぶメガネ。
驚いた亮の胸ぐらをつかみ、結翔は亮を壁に押しつける。
結翔「黙って聞いておけば、好き勝手言いやがって…」
結翔の低い声。
結翔の圧に、顔をこわばらせる亮。
亮「な、なんだよ…!オレは、本当のことを言ってるだけだろ…!」
結翔「俺のことはなんと言おうとかまわないけど、咲茉のことを悪く言うのだけは許さない」
亮を睨みつけながら前髪をかき上げる結翔。
結翔に睨まれ、顔が青ざめる亮。
亮「ひっ…ひぃぃぃ!」
結翔に圧倒され、亮は情けない悲鳴を上げる。
結翔「今度、咲茉のこと悪く言ってみろ。そのときは容赦しねぇから」
結翔は、突き飛ばすようにして亮の胸ぐらを離す。
亮「べ…べつに、もうこねぇよ!咲茉がいなくたって、女には困ってねぇんだし…!!」
亮は捨て台詞を吐くと、逃げるようにして帰っていった。
その後ろ姿を睨みつける結翔。
咲茉「結翔くん…」
咲茉は惚れ惚れと結翔を見つめていた。
亮がいなくなったのを確認すると、咲茉のほうを振り返る。
結翔「えまちゃん、なにもされてない…!?」
咲茉「…う、うん!わたしは平気」
結翔「よかった…。えまちゃんが絡まれてるところを見かけたから、思わず間に入っちゃったけど…。追い返して大丈夫だった…?」
咲茉「それはもちろん…!わたしだけじゃどうにもならなかったけど、結翔くんがきてくれて助かったよ!」
咲茉は、落ちていたメガネを拾い上げると結翔に手渡す。
結翔「ありがとう」
結翔はメガネをかけると、かき上げていた前髪を下ろす。
いつもの地味な結翔に戻る。
咲茉「…だけど、素顔さらしちゃっても大丈夫だったの?」
結翔「ああ…、メガネ吹っ飛んじゃったしね。でも頭にきて、そんなこと冷静に考えてる場合じゃなかった」
ハハハと軽く笑ってみせる結翔。
結翔「それにあの感じだと、ビビってなにも覚えてないんじゃないかな」
咲茉「たしかにそうだねっ」
情けなく逃げ帰った亮の後ろ姿を思い出して、顔を見合わせてクスクスと笑い合う結翔と咲茉。
咲茉は先程のミナトの姿で亮を圧倒した結翔のことを思い出す。
結翔『黙って聞いておけば、好き勝手言いやがって…』
結翔『俺のことはなんと言おうとかまわないけど、咲茉のことを悪く言うのだけは許さない』
結翔『今度、咲茉のこと悪く言ってみろ。そのときは容赦しねぇから』
顔がぽっと赤くなる咲茉。
咲茉「…そういえば、結翔くん。さっきわたしのこと…」
恥ずかしそうに口ごもる咲茉。
それを見て、はっとする結翔。
結翔「…あっ、ごめん。えまちゃんのこと『彼女』って言っちゃったよね。ああ言わないと、引き下がってくれないと思ったらから…つい。ほんとごめんね」
結翔は咲茉に平謝りする。
咲茉「そ…そんな!謝ることじゃないから、頭上げて…!」
戸惑う咲茉。
内心はうれしかった。
さっきのことを思い出す咲茉。
結翔『元カレだかなんだか知らないけど、俺の彼女に気安く触るな』
結翔『俺たち付き合ってるから。わかったなら、部外者はさっさと消えな』
咲茉(亮くんを追い払うために出た言葉だったとはいえ、…うれしかったな。推しに『彼女』だなんて言われるなんて、まるで夢みたい。それに『咲茉』って呼んでくれた)
ドキドキする胸にそっと手を当てる咲茉。
◯前述の続き、咲茉の家、結翔の部屋(夜)
コンコン!
結翔の部屋のドアをノックする咲茉。
咲茉「結翔くん、入るよ〜」
咲茉が部屋に入ると、結翔がベッドの上で仰向けになっていた。
咲茉「…ごめんっ。寝てた…?」
結翔「ううん。ちょっと考え事してただけ」
咲茉「そっか」
ベッドから起き上がる結翔。
結翔「どうかした?」
咲茉「おいしいさくらんぼ、たくさんもらったんから、結翔くんにもってお母さんが」
咲茉は、ガラスの小皿に盛られたさくらんぼを結翔の部屋のテーブルの上に置く。
結翔「ありがとう」
咲茉「じゃあ、それだけだから」
結翔「待って」
部屋から出ていこうとする咲茉を呼び止める結翔。
キョトンとして振り返る咲茉。
結翔「1人じゃ食べきれないから、えまちゃんも手伝って」
にこりと笑う結翔。
結翔と咲茉は、小さな丸いテーブルを囲むように向かい合わせになってカーペットの上に座る。
結翔「うん!おいしいね、このさくらんぼ」
咲茉「お母さんの伯父さんが毎年送ってきてくれるの。わたしも小さいときから大好きで」
さくらんぼを食べる結翔と咲茉。
ふと、結翔がさくらんぼを食べる手を止める。
結翔「それにしても、あの男…失礼だったな。思い出したら余計に腹が立ってきた」
亮のことを思い出し、腹を立てる結翔。
咲茉「なんか…結翔くんまで巻き込んじゃって、ごめんね」
結翔「俺はべつにかまわないよ。でも、どうしてえまちゃんみたいなコが…あんな男と」
咲茉「…う〜ん。わたしにとっても、忘れたくなるくらいの黒歴史…」
苦笑いを浮かべる咲茉。
咲茉「ありさや周りの友達にも彼氏ができ始めたころにちょうど亮くんから告白されて、わたしも初めての彼氏で浮かれちゃってたんだと思う…」
咲茉は、亮とのことを軽く結翔に話す。
1年前、何回かグループでカラオケに行ったことのある亮から告白され、付き合うことになった咲茉。
他校だったということもあり、頻繁に会うような仲ではなく、徐々に連絡も少なくなってきた――付き合って3ヶ月くらいの頃。
街中で、亮が知らない女の子と手を繋いでる場面に遭遇する。
咲茉に気づくも、亮は無視。
その夜、【好きなコができたから別れよう】と咲茉にメッセージが届く。
浮気されていたことに腹を立てるも、亮とはキスやなにかをされたわけでもなかったため、咲茉はそのままあっさり別れることにした。
咲茉の話を静かに聞いていた結翔が口を開く。
結翔「サイテーなクソ野郎だね」
咲茉「…うん。あんなのと一度でも付き合ってたなんて、…一生の恥」
テンションが下がり、顔が青ざめる咲茉。
咲茉「でも、亮くんのことなんてすぐに忘れることができたの。それは、結翔くんのおかげなんだ」
結翔「…え、俺?」
キョトンとして、自分を指さす結翔。
咲茉「ありさがA*STERについて熱弁してくれて。『いい曲ばっかりだから絶対に聞いて!』って言って、わたしにA*STERのアルバムを押しつけてきて」
結翔「うわ〜、妹尾さんすごいね」
咲茉「うん。せっかく借りたからと思って聞いてみたら、本当にどれもいい曲ばかりで。そこから、わたしもA*STERにハマっちゃったんだ」
結翔「へ〜、そうだったんだ。なんかうれしいなぁ」
咲茉「それで、A*STERが出演する歌番組もチェックするようになって」
当時のことを頭の中で思い返し、懐かしむ咲茉。
咲茉(テレビに映るミナトくんの笑顔に励まされて、嫌なことも全部吹っ飛んじゃったんだよね。それが、わたしがミナトくん推しになるきっかけだったなぁ)
頬杖をつき、思い返す咲茉のことをやさしいまなざしで見つめる結翔。
咲茉(その推しが同じ家に住むことになって、こうして同じ部屋でさくらんぼを食べてるだなんて、A*STERを好きになった頃の去年のわたしが知ったらびっくりするだろうな)
そんなことを想像して、少しだけ微笑む咲茉。
結翔「それで、えまちゃんはルキ推しになったんだ」
咲茉「…えっ!?…あ、う…うん」
結翔に突然声をかけられて、驚く咲茉。
また『ミナト推し』とは言い出せず、ぎこちなく返事をする。
結翔「ねぇ、えまちゃん」
咲茉「ん?」
結翔「ルキ推しのえまちゃんにこんなこと頼むのは失礼かもしれないけど…」
咲茉「…?」
首をかしげる咲茉。
テーブルの向かい側から身を乗り出す結翔。
結翔「俺の彼女になってくれないかな」
予想もしていなかった結翔の言葉に、さくらんぼを食べていた咲茉の口元からヘタがぽとりと落ちる。
咲茉(……え…)
目をパチクリとさせる咲茉。
咲茉(……えっ…)
ごくりとさくらんぼを飲み込む咲茉。
咲茉「……えっーーー!?」
目を丸くして、絶叫する咲茉。
と同時にむせる。
結翔「えまちゃん…大丈夫!?」
咲茉「…ケホッ、ケホッ!種まで飲んじゃった…」
胸をたたく咲茉。
水を飲んで、いったん落ち着く。
結翔「ごめんね、驚かせちゃって」
咲茉(…ほんと、びっくりだよ。わたしがミナトくんの彼女…?ないない、絶対ない。きっとなにかの聞き間違い)
自分に言い聞かせる咲茉。
咲茉「…もうっ、結翔くんからかわないで」
結翔「べつに…からかってるわけじゃないんだけど」
咲茉「だって、A*STERは恋愛禁止でしょ…?」
結翔「あ…うん、そうなんだけど…。正確には、『彼女役を演じてほしい』んだよね」
それを聞いて、キョトンと首をかしげる咲茉。
咲茉「彼女役…というと?」
結翔「実は、今度映画の撮影があるんだ。来年の冬公開だからまだ詳しいことは話せないんだけど…。それで、俺は彼女がいる青年役を演じることになって――」
しかし、これまでA*STERの仕事ばかりで恋愛経験の少ない結翔。
なかなか役になりきることができていなかった。
結翔「だから、しばらくの間だけでいいから、俺の彼女の役を演じてくれないかな…?そうしたら、なにかヒントをつかめそうなんだけど…」
咲茉「もしかして結翔くん、さっきベッドに寝転がって考え事してたっていうのも――」
結翔「うん。どうしたらうまくいくかなって、役のことを考えてた」
恥ずかしそうに微笑む結翔。
なんでも完璧にこなすと思っていた結翔の完璧じゃないところを知って、思わず母性本能をくすぐられる咲茉。
結翔「…どうかな?無理にとは言わないんだけど…」
咲茉「そんな…、わ…わたしなんかでいいの?」
結翔「頼めるの、えまちゃんしかいないんだよね」
怯えた小動物のような目で、咲茉を見つめる結翔。
その姿に、胸がキュンとなる咲茉。
咲茉「ゆ…、結翔くんが困ってるのなら…」
結翔「…ほんと!?いいの!?」
緊張で、無言でカクカクと首を縦に振る咲茉。
安心したように笑みをこぼす結翔。
結翔「よかった〜…。えまちゃんってルキ推しだから、俺の彼女役なんて絶対に断られると思ったらから」
安堵から脱力する結翔。
咲茉(たとえ役のための演技とはいえ、推し本人から『彼女になって』なんて頼まれるなんて〜…!)
ドキドキする咲茉。
結翔「…じゃあ、そういうことで。よろしくね、えまちゃん」
咲茉「う、うん!」
緊張しながら返事をする咲茉。
◯咲茉の家、脱衣所兼洗面所(朝)
次の日。
咲茉が歯磨きをしていると、パタパタと足音が聞こえてくる。
やってきたのは結翔。
結翔「おはよう、えまちゃん」
咲茉「結翔くん、おはよう」
結翔は、鏡の前に立って歯磨きをする咲茉を後ろから包み込むようにして、自分の歯ブラシに歯磨き粉をつける。
後ろから抱きしめられているような姿が鏡に映り、頬を赤くして結翔のほうを振り返る咲茉。
咲茉「ゆ…、結翔くん…!」
結翔「そんなに気にすることじゃないでしょ?だって俺たち、付き合ってるんだから」
結翔の憎めない笑顔にドキッとした咲茉は恥ずかしそうに顔を背ける。
それからというもの、人目を避けて手を繋いだりと、結翔とのヒミツのカップルごっこにドキドキしっぱなしの咲茉。
◯学校、2年1組の教室(昼休み)
そんなある日。
お弁当を食べ終わった咲茉とありさは、窓から外を眺めている。
ありさ「そうだ、咲茉」
咲茉「ん?どうかした?」
ありさ「あたし、咲茉に言わなくちゃいけないことがあるんだよね」
咲茉「言わなくちゃいけないこと?」
首をかしげる咲茉。
ありさ「実はあたし、水瀬くんのことが好きになっちゃったみたいなんだよね」
恥ずかしそうにはにかむありさ。
それを聞いて、固まる咲茉。
咲茉(……えっ…)