君に出逢える私になるまで
02 I love you
 陽と私の関係は、主人とボディーガードというものだった。父に雇われた陽は常に私の側にいて、守ってくれた。先に好きになったのは陽で、12歳の時にプロポーズされた。付き合っていた彼女と別れて1週間も経ってなかったし、年齢差もありすぎたし、その軽さに呆れていたのだが、結局いつも陽に癒されている自分がいることに気づいて、付き合いだした。
 付き合いだしても、私たちの関係性は変わらなかった。彼氏彼女としての時間が少なくても、ただ無言で後ろに立つだけで会話がなくても、陽の気配を感じるだけで幸せだった。そして時々手を繋ぐだけで、私は底知れない元気をもらった。
 陽がそれで良かったのかはわからない。幼い私に物足りなさを感じて、他の彼女もいたかもしれない。それでも良かった。一緒にいる時間があるだけで、良かった。
 それなのに、陽は死んじゃったんだ。
 あの日私は海にいた。少しずつ大きくなりだした波が船を揺らすのも面白くて、小さな海の旅を楽しんでいた。やがて、大波が来て、船ごと海に投げ出されても、普段は大人しくしていることが多いから何だか楽しくて。だけど、体がだんだんと沈んでいく。どこまで深いかもわからない海に。必死に顔を上げると、大波がやってくるのが見えた。「もう死ぬ!」そう思った瞬間、陽が隣に来た。浅瀬へと強い力で押された私は生き延びた。
 陸に上がっても、陽は戻って来なかった。数日後、波打ち際に打ち上げられていた。
 何もしてあげられなかった。亡くなった陽を抱き締めて泣きながら、そう思った。付き合っていながら、愛しているって陽に言ってもらうばかりで、何も返せていない。本当は、誰よりも、暖かに想うこの気持ちを、一度も伝えたことはなかった。
 もし、もう一度陽に会えるなら、伝えたい。そして陽の幸せを祈りたい。
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