君に出逢える私になるまで

03 traveling

 バイト募集をタップしては、いいね!をつけ、また外し、次の求人を見るが、できそうな仕事は見つからない。通っている女子大では、周りの友達はみんなアルバイトをしているが、普段から会食や習い事に多くの時間を割いているため、難しい。数時間だけのアルバイトもないことはないが、そこまでしてやりたい仕事もなく、なんだか気力が出ない。ベッドに寝転がって、何か楽しい仕事ないかなあなんて考える。あるわけないのに。社会はそんなに易しくないのに。本当に、何もできない世間知らずのお嬢様に育ったなとしみじみ思う。こんな自分が嫌になる。でもどうやって変えればいいんだろう。
 コンコンとドアをノックする音がする。そっか、もうそんな時間か。朝早く起きて用意したつもりだったのに、いつの間にか時間が過ぎていたみたいだ。
 「恋乃様、茶道の時間です。」
 「はい、今出るわ」
 鏡の前で帯が乱れていないことをチェックする。今日は、ピンクの着物に真っ赤な帯を着けてみた。先生は淡い色にした方がいいと言うけれど、赤だけは譲れない。ハッキリした自分の意思と情熱を兼ね備えているようなこの色に心底憧れる。私の目指すべき目標なんだ。
 部屋の扉を開けると、先生はやはり顔をしかめた。
 「恋乃さん、今着けてらっしゃる赤い帯より、こう、淡いお色の方がお似合いになると思うのですが。」開口一番そう言い、部屋の中に入ると、畳んである帯の中から、水色や薄紫の物を持ってくる。確かに、私はあまり濃い色が似合わない。けれど、今日は濃い色も似合うように化粧をしたのだ。
 「先生、赤い帯じゃないと嫌なんです。化粧もしているから似合わないことないでしょ。それよりも、大事なことは美味しいお茶を立てること。私はまだまだだけど、それだけは先生と同じだと思うの。」そう言うと、先生は黙ってしまった。
 「確かに、そうですね、恋乃さん。帯の色は気になりますが、とりあえず始めましょう。」先生はパッと顔を上げて言うと、いつもの定位置に正座する。私もいつもの場所に正座をすると、深く礼をする。
 「それでは、今日も宜しくお願い致します。」
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