結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
結婚の儀のあと、私たちは一緒に礼拝堂を出て、その際ノア様は私にこう耳打ちをした。
「今夜は、君の部屋に行ってもいいか?」
カッと顔が熱くなる。
結婚したふたりは初夜を共に過ごすことが世間では一般的で、その一般は王族にも当たり前に適用されるようだ。どこにも例外はないらしい。ということで、私は逃げ場を失ってしまった。
ローズリンドでは、婚前交渉はあまりいいものとされていない。
そのため初夜を迎える際、ほとんどの夫婦が初めて……男女の営みってものをすることが多いと聞くが、私にはまだ心の準備ができていなかった。
これまでは結婚前夜ともなるとある程度覚悟ができていたものの、今回は違う。なぜなら、ノア様が私に手を出してくるなんてほんの少しも考えていなかったからだ。
だから晩餐の時、私はあんなことを言った。ベティの部屋に行ってくださいと。その矛先が急に自分へ向けられて、戸惑うのは仕方がない。
「えっと、その、あの……」
夫となった相手、しかも将来、国のトップに立つノア様からの頼みを断るなどできない。そんなことをしたらこの場で離縁される可能性がある。なんなら、夜にノア様が私を襲いにくるかも。そしてループが続くなんてことになったら最悪だ。
どんな形であってもノア様が夜に私の部屋へ来るというだけで恐怖を感じるのは、ノア様に殺されてきたからだろう。結婚前夜に同じことを言われていたら、さすがの私も眠れなかったと思う。
「……ごめんなさいノア様! 私、まだ心の準備が……どうせなら、準備万端の時にぜひ、来てほしいと思って……!」
準備万端ってなんだろうと言いながら思った。色っぽいナイトウェアを着て、ベッドの上でノア様を挑発するように眺める自分を想像してみる。ありえない。そんなことされたら興ざめだろう。いや、むしろ興ざめしてもらうべき……?
「……ふっ。わかった。意地悪を言ってすまない」
ひとりで真剣に悩んでいると、ノア様が小さく笑う。まるで私の答えをわかっていたかのようだ。
「君のためなら待てる。でも、俺にも限界があるっていうのは覚えておいてくれ」
「……もし限界がきたら?」
「そうだな。エルザの準備を待たずに、君の部屋に夜這いに行くとしよう」
ノア様はアクアマリンの瞳を細めて妖しげににやりと口角を挙げた。その表情は男の色気がダダ漏れしており、普通だったら一発で落ちてしまいそうになるが、私は背筋が凍る思いだった。
――夜這いって、笑えないから!
私の中ではノア様の夜這い=殺されるになっている。堂々と殺人宣言をされては、いくら顔がよくたって恋人のようなムードにはならない。
「……される前に、私から行きます」
「なっ……ずいぶん積極的なんだな。エルザ」
「はい。やられる前にやる精神でいこうかと」
そう言うと、ノア様が隣で盛大に咳き込んだ。
「大丈夫ですかノア様!」
私は必死にノア様の背中を擦る。ノア様の咳き込みをきっかけに、初夜の話には終止符が打たれた。
その夜、ノア様が私の部屋を訪ねることはなかった。
「今夜は、君の部屋に行ってもいいか?」
カッと顔が熱くなる。
結婚したふたりは初夜を共に過ごすことが世間では一般的で、その一般は王族にも当たり前に適用されるようだ。どこにも例外はないらしい。ということで、私は逃げ場を失ってしまった。
ローズリンドでは、婚前交渉はあまりいいものとされていない。
そのため初夜を迎える際、ほとんどの夫婦が初めて……男女の営みってものをすることが多いと聞くが、私にはまだ心の準備ができていなかった。
これまでは結婚前夜ともなるとある程度覚悟ができていたものの、今回は違う。なぜなら、ノア様が私に手を出してくるなんてほんの少しも考えていなかったからだ。
だから晩餐の時、私はあんなことを言った。ベティの部屋に行ってくださいと。その矛先が急に自分へ向けられて、戸惑うのは仕方がない。
「えっと、その、あの……」
夫となった相手、しかも将来、国のトップに立つノア様からの頼みを断るなどできない。そんなことをしたらこの場で離縁される可能性がある。なんなら、夜にノア様が私を襲いにくるかも。そしてループが続くなんてことになったら最悪だ。
どんな形であってもノア様が夜に私の部屋へ来るというだけで恐怖を感じるのは、ノア様に殺されてきたからだろう。結婚前夜に同じことを言われていたら、さすがの私も眠れなかったと思う。
「……ごめんなさいノア様! 私、まだ心の準備が……どうせなら、準備万端の時にぜひ、来てほしいと思って……!」
準備万端ってなんだろうと言いながら思った。色っぽいナイトウェアを着て、ベッドの上でノア様を挑発するように眺める自分を想像してみる。ありえない。そんなことされたら興ざめだろう。いや、むしろ興ざめしてもらうべき……?
「……ふっ。わかった。意地悪を言ってすまない」
ひとりで真剣に悩んでいると、ノア様が小さく笑う。まるで私の答えをわかっていたかのようだ。
「君のためなら待てる。でも、俺にも限界があるっていうのは覚えておいてくれ」
「……もし限界がきたら?」
「そうだな。エルザの準備を待たずに、君の部屋に夜這いに行くとしよう」
ノア様はアクアマリンの瞳を細めて妖しげににやりと口角を挙げた。その表情は男の色気がダダ漏れしており、普通だったら一発で落ちてしまいそうになるが、私は背筋が凍る思いだった。
――夜這いって、笑えないから!
私の中ではノア様の夜這い=殺されるになっている。堂々と殺人宣言をされては、いくら顔がよくたって恋人のようなムードにはならない。
「……される前に、私から行きます」
「なっ……ずいぶん積極的なんだな。エルザ」
「はい。やられる前にやる精神でいこうかと」
そう言うと、ノア様が隣で盛大に咳き込んだ。
「大丈夫ですかノア様!」
私は必死にノア様の背中を擦る。ノア様の咳き込みをきっかけに、初夜の話には終止符が打たれた。
その夜、ノア様が私の部屋を訪ねることはなかった。