結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
 ループから抜け出した私には、当たり前に明日が待っていた。だが、今でもこれは夢なのではないかと思う。
 その原因は、昨日のノア様の言葉だ。
『俺は君を、本気で愛している。昔からずっと……俺が愛しているのはエルザ、君だけだ』
 目覚めて最初に思い出すのが愛の告白だなんて、私もどうかしている。それくらい、ノア様からの告白は私に強烈な印象を与えた。
「……あんなの、冗談よね」
 いくら印象に残ろうとも、到底すぐにありのままその告白を飲み込むことはできない。万が一事実だったとて、さらに疑問を持つばかりだ。
――私のことが好きだったなら、どうして何度も私を殺していたんだろう。
ノア様は私を憎んでいたから殺していた。その考えが間違っていたとするなら、よけいに殺される意味がわからない。理由もなく殺人などしないはずだ。それに、あきらかに私のことを好きな人の態度ではなかった。
「今世のノア様は私を好き、とか? それとも結婚したことで気持ちが盛り上がっちゃったり……?」
 昨日から悩んでばかりだ。せっかくループから抜け出したのに、悩みの種は増え続ける。
 まぁ……あんまり本気にしないでおこう。ノア様が私をからかっているだけかもしれない。私がノア様に惚れるかどうか、アルベルト様と賭けて遊んでいるっていうのも考えられるわ。男の人って、賭け事が好きな人が多いイメージがあるもの。
 自分の中で勝手に種をひとつずつ処理していると、扉がノックされ、静かに開かれる。昨日と同じ侍女が朝の準備をしにきたのだろうか。
「おはようございます……エルザ!」
「ベティ!」
 現れたのはベティだった。
 ベティは扉を閉めると、朝からテンション高めにまだベッドにいる私に抱き着いてくる。「どうしたのベティ。ノア様のところへ行かなくていいの?」
 ベティはノア様の専属侍女だ。だから、朝に私のところへ来てくれるとは思っていなかった。
「いいの! 私、ノア様に専属を解雇されたから!」
「か、解雇!?」
「そうよ! ああ、なんて最高の朝!」
 解雇されたというのに、なぜかベティの表情は生き生きとしている。鼻歌まで歌い始めステップを踏む彼女に、私は無意識に奇異の眼差しを送ってしまった。
「ねぇ、それって私のせい!? 私と結婚したから、ベティが解雇されたのだとしたら……」
 ベティと裏腹に、私はとても動揺した。私としては、まだノア様とベティが恋人同士という線を諦めきれていない。そのため昨日は周囲の人すべてを欺くためにノア様が私に一芝居打ったという線も――。
「エルザとの結婚がきっかけっていうのは正解だけど、エルザがしているであろう予想は全部違うと思うわ! だって見てよ。私のこのテンション!」
悲しくて壊れているだけっていう感じにも……たしかに見えない。
「私ね、やっとノア様から解放されて嬉しくてたまらないの!」
「……嬉しい? 解放?」
 ベティは大きく、何度も頷く。
「だって、ノア様ってすっごく面倒くさい主人だったから! 一緒にいたせいで変な噂を立てられるし、本当にいい迷惑よ。ま、向こうもそこは同意見だと思うけど」
「待って。ベティってノア様に好意があるんじゃあ……」
「ないわ! というか、それこそが変な噂ってやつよ! あのねエルザ、私とノア様は世間で言われているような関係ではないのよ」
 私の追っていた線が、綺麗に行く道を断たれる。ベティは〝ノア様は侍女と禁断の恋に落ちている〟という噂を真っ向から否定してきたのだ。
「で、でも、よくふたりきりで過ごしていたって聞いたけど……」
「それが私にとっての苦行のひとつだったの。詳しく言ったらノア様に怒られるから言わないでおくけど……やましいことをしていたわけではないわ。ただ、ノア様の恋愛相談に乗っていただけ」
「恋愛相談……? ノア様がベティに?」
 そんな姿、ちっとも想像つかない。どちらかといえば、ノア様は恋愛話になんて興味なさそうだ。そういった話に花を咲かせている男女を一歩下がった場所で、呆れた顔で見守るタイプ……。
 もしかして、世間も私同様のイメージを持っているからこそ、隠れてベティに恋愛相談するしかなかったってことなのか。だとしたら、ちょっと可愛いなんて思ってしまう。
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