結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
私がなにかせずとも、ノア様なら自分で欲しいものを手にする力があるだろう。……うぅ。よけいなお世話だったろうか。
「君にしてほしいことなんて、山ほどあるからな」
「……」
どうやら杞憂だったらしい。無理難題を突き付けられたらどうしようと新たな不安を抱えつつ、ひとり考え込むノア様を見守る。
「それじゃあ……エルザに触れてもいいだろうか」
「……触れる?」
「さっき、リックと仲良くじゃれ合っていたろう。それを見て、あいつだけずるいと思って」
な、なにそれ! ノア様ったら、話せば話すほど可愛いギャップを見せつけてくるじゃない!
つまり、ノア様もなでなでされたい――じゃなくて、触れたいなら、私をなでなでしたいってことね。普段リックが全然撫でさせてくれないって言っていたもの。私とリックの姿を見て、ノア様のなでなで欲が刺激されたんだわ!
「もちろん! 好きなだけどうぞ!」
「……き、君って結構大胆なんだな」
大胆かどうかも、リックの代わりが私に務まるかも知らないが、ノア様のなでなで欲求がこれで満たされるならそれでいい。私はリックみたいにもふもふもふわふわもしていなければ、別段触り心地がいいわけではないけれど。
「でも助かるよ。それくらいのほうが。……こっちに来てくれる?」
「はいっ! どこに行けば――」
立ち上がった私を、ノア様が自分の足の間に座らせる。そして背後からノア様の腕が回って来て、ぎゅっと抱きしめられた。
――ノ、ノア様って、愛犬は後ろから抱きしめたいタイプ? そっかぁ! でもなんだか、自分がやられると……想像以上に照れくさいというか……。
これはただのリックの代理なんだから、変に意識してはダメ。そう思えば思うほど、ノア様の些細な動きひとつひとつに反応してしまう。胸の下にある両手が次はどこにいくんだろうとか、頭の後ろにあるノア様の心音の速度すら、気になって仕方がない。
「ずっとこうしたかった」
低い声で、ノア様がため息まじりに囁く。そのまま後頭部にキスをされると、右手で優しく私のダークブラウンの髪を撫で始めた。
「綺麗な髪だ。俺の手から逃げるようにするするとすべり落ちていく」
髪の毛を一束掬うように手に取って、ノア様が言った。……普通、こんなに色っぽく愛犬の毛を撫でたりしないと思うけれど……ノア様にとってはこれが普通なのかと思い、私はされるがまま状態だ。
「エルザがあの夜俺に声をかけてくれなければ、もしかしたらこの美しい髪みたいに、俺の手では君をうまく掴みとれなかったかもしれない」
……実際、私は婚活目当てであのパーティーに参加していた。その候補にノア様は当然入っていないし、話しかけなければきっと、いつものようにべつの令息と婚約したことだろう。
「君と結婚して、俺は変わるって決めたんだ。想いだけがどれほど強くたって、本人に示さなければ意味がないと思い知ったから」
ノア様の腕に力がこもる。耳元には微かに吐息を感じ、振り向けばすぐそこにノア様がいるのだと気づかされる。
「エルザ、好きだ」
「……っ」
「本当に好きだ。絶対逃がさない」
「あ、あの、ノア様……くすぐったいです……」
わざとなのか偶然なのか、耳元で何度も好きだと囁かれ、そのたび耳にかかる吐息に身をよじらせる。そのはずみで僅かに腰を浮かせてしまうと、ノア様ががっちりと身体をホールドしてきた。
「逃がさないと言ったはずだが?」
「ちがっ……逃げようとしたわけでは……」
「だったら動かないで、俺の好きにさせて? それでいいって言ったのはエルザだ」
数分前に、好きなだけどうぞ、なんて言った自分を恨む。
唯一よかったことと言えば、この体勢だと互いの顔を見ずに済むことだ。こんなふうに何度も好きと言われるのは初めてで、自分でもノア様に囁かれるたびに体温が上がっているのがわかる。たぶん、今の私は真っ赤な顔をしているはずだ。
その後もノア様は、飽きることなく私の髪を撫でたり、ただ黙ってぎゅうっと抱きしめたり、耳の裏に軽くキスを落としてきたりし続ける。何度も変な声を上げながらも、自分はノア様のペットになったのだと頭で言い聞かせた。
「あの、ノア様、ずっとこうしてて飽きませんか?」
「全然。君はとっても抱き心地がいい。どこもかしこも柔らかくて、いいにおいがする」
そんなの、リックのほうが私より全部勝ってるのに。
「けどそうだな。そろそろこの体勢だとワンパターンになってきた」
「! ですよね。では、すぐに退きますので」
腕の力は緩んだ瞬間、私はすかさず立ち上がった。
やっと終わったと思ったら、ノア様から悪魔のような一言が発せられる。
「次はエルザの顔が見たい」
「……えっと?」
「こっちを向いて」
それだけは無理! と思ったが、ノア様の手によって強制的にぐるりと身体を反転させられる。
「きゃっ……!」
そのまま腕を引かれて、ノア様の身体に倒れ込むような体勢になってしまった。
ノア様は私の頬を両手でふわりと包むと、愛おし気に目を細める。
「思った通り、真っ赤だな」
「……え、えっと」
「俺のすることで照れてくれるなんて嬉しい」
ノア様は満足げに笑うと、また私の髪に優しく触れる。優しいがどこかなまめかしい手つきに、私はようやく思い直した。
――これは、私がリックにしたなでなでとは全然違う気がする!
そこに気づいてしまうと、もうこれ以上は耐えられない。ただの可愛らしいじゃれ合いでなければ、私たちがしていることは、まさにただの男女のいちゃいちゃ……!
「ノ、ノア様……」
「ん? どうした?」
「あ、あの……恥ずかしいので、今日はここまでにしてください……」
俯いてふるふると唇を震わせて言えば、ノア様の動きがぱたりと止まる。
「……わかった」
茹でタコみたいになっているであろう私を見て、さすがにノア様もこれ以上続ける気にはならなかったのか、私の要求をのんでくれた。
「今日は諦めよう」
「っ!」
まるで次があることを私に知らせるように、ノア様は微笑する。そんなノア様を見て、私は今後の結婚生活が不安になった。
やっぱりノア様は、私の人生の要注意人物だわ……!
「君にしてほしいことなんて、山ほどあるからな」
「……」
どうやら杞憂だったらしい。無理難題を突き付けられたらどうしようと新たな不安を抱えつつ、ひとり考え込むノア様を見守る。
「それじゃあ……エルザに触れてもいいだろうか」
「……触れる?」
「さっき、リックと仲良くじゃれ合っていたろう。それを見て、あいつだけずるいと思って」
な、なにそれ! ノア様ったら、話せば話すほど可愛いギャップを見せつけてくるじゃない!
つまり、ノア様もなでなでされたい――じゃなくて、触れたいなら、私をなでなでしたいってことね。普段リックが全然撫でさせてくれないって言っていたもの。私とリックの姿を見て、ノア様のなでなで欲が刺激されたんだわ!
「もちろん! 好きなだけどうぞ!」
「……き、君って結構大胆なんだな」
大胆かどうかも、リックの代わりが私に務まるかも知らないが、ノア様のなでなで欲求がこれで満たされるならそれでいい。私はリックみたいにもふもふもふわふわもしていなければ、別段触り心地がいいわけではないけれど。
「でも助かるよ。それくらいのほうが。……こっちに来てくれる?」
「はいっ! どこに行けば――」
立ち上がった私を、ノア様が自分の足の間に座らせる。そして背後からノア様の腕が回って来て、ぎゅっと抱きしめられた。
――ノ、ノア様って、愛犬は後ろから抱きしめたいタイプ? そっかぁ! でもなんだか、自分がやられると……想像以上に照れくさいというか……。
これはただのリックの代理なんだから、変に意識してはダメ。そう思えば思うほど、ノア様の些細な動きひとつひとつに反応してしまう。胸の下にある両手が次はどこにいくんだろうとか、頭の後ろにあるノア様の心音の速度すら、気になって仕方がない。
「ずっとこうしたかった」
低い声で、ノア様がため息まじりに囁く。そのまま後頭部にキスをされると、右手で優しく私のダークブラウンの髪を撫で始めた。
「綺麗な髪だ。俺の手から逃げるようにするするとすべり落ちていく」
髪の毛を一束掬うように手に取って、ノア様が言った。……普通、こんなに色っぽく愛犬の毛を撫でたりしないと思うけれど……ノア様にとってはこれが普通なのかと思い、私はされるがまま状態だ。
「エルザがあの夜俺に声をかけてくれなければ、もしかしたらこの美しい髪みたいに、俺の手では君をうまく掴みとれなかったかもしれない」
……実際、私は婚活目当てであのパーティーに参加していた。その候補にノア様は当然入っていないし、話しかけなければきっと、いつものようにべつの令息と婚約したことだろう。
「君と結婚して、俺は変わるって決めたんだ。想いだけがどれほど強くたって、本人に示さなければ意味がないと思い知ったから」
ノア様の腕に力がこもる。耳元には微かに吐息を感じ、振り向けばすぐそこにノア様がいるのだと気づかされる。
「エルザ、好きだ」
「……っ」
「本当に好きだ。絶対逃がさない」
「あ、あの、ノア様……くすぐったいです……」
わざとなのか偶然なのか、耳元で何度も好きだと囁かれ、そのたび耳にかかる吐息に身をよじらせる。そのはずみで僅かに腰を浮かせてしまうと、ノア様ががっちりと身体をホールドしてきた。
「逃がさないと言ったはずだが?」
「ちがっ……逃げようとしたわけでは……」
「だったら動かないで、俺の好きにさせて? それでいいって言ったのはエルザだ」
数分前に、好きなだけどうぞ、なんて言った自分を恨む。
唯一よかったことと言えば、この体勢だと互いの顔を見ずに済むことだ。こんなふうに何度も好きと言われるのは初めてで、自分でもノア様に囁かれるたびに体温が上がっているのがわかる。たぶん、今の私は真っ赤な顔をしているはずだ。
その後もノア様は、飽きることなく私の髪を撫でたり、ただ黙ってぎゅうっと抱きしめたり、耳の裏に軽くキスを落としてきたりし続ける。何度も変な声を上げながらも、自分はノア様のペットになったのだと頭で言い聞かせた。
「あの、ノア様、ずっとこうしてて飽きませんか?」
「全然。君はとっても抱き心地がいい。どこもかしこも柔らかくて、いいにおいがする」
そんなの、リックのほうが私より全部勝ってるのに。
「けどそうだな。そろそろこの体勢だとワンパターンになってきた」
「! ですよね。では、すぐに退きますので」
腕の力は緩んだ瞬間、私はすかさず立ち上がった。
やっと終わったと思ったら、ノア様から悪魔のような一言が発せられる。
「次はエルザの顔が見たい」
「……えっと?」
「こっちを向いて」
それだけは無理! と思ったが、ノア様の手によって強制的にぐるりと身体を反転させられる。
「きゃっ……!」
そのまま腕を引かれて、ノア様の身体に倒れ込むような体勢になってしまった。
ノア様は私の頬を両手でふわりと包むと、愛おし気に目を細める。
「思った通り、真っ赤だな」
「……え、えっと」
「俺のすることで照れてくれるなんて嬉しい」
ノア様は満足げに笑うと、また私の髪に優しく触れる。優しいがどこかなまめかしい手つきに、私はようやく思い直した。
――これは、私がリックにしたなでなでとは全然違う気がする!
そこに気づいてしまうと、もうこれ以上は耐えられない。ただの可愛らしいじゃれ合いでなければ、私たちがしていることは、まさにただの男女のいちゃいちゃ……!
「ノ、ノア様……」
「ん? どうした?」
「あ、あの……恥ずかしいので、今日はここまでにしてください……」
俯いてふるふると唇を震わせて言えば、ノア様の動きがぱたりと止まる。
「……わかった」
茹でタコみたいになっているであろう私を見て、さすがにノア様もこれ以上続ける気にはならなかったのか、私の要求をのんでくれた。
「今日は諦めよう」
「っ!」
まるで次があることを私に知らせるように、ノア様は微笑する。そんなノア様を見て、私は今後の結婚生活が不安になった。
やっぱりノア様は、私の人生の要注意人物だわ……!