結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
神と精霊の庭
「見てくださいエルザ様、この前植えた種、芽が出ましたよ!」
「わぁ! 本当だ! ……それにしても、ベティに敬語を使われるのって変な気分」
「我慢してくださいませ。さすがに王宮の庭園でいつも通りにはいきませんわ」
王宮での生活にも慣れてきた頃。私はベティと庭園で散歩をしていた。今日は天気が良いので、外に出ようという話になったのだ。
てっきり、ノア様と結婚したらすぐ王妃教育が始まるのかと思っていたら、そういうわけでもなかった。ノア様が王位を継ぐにしても、それはまだ先のこと。まずは、私に王宮での生活を慣れさせることから始めようという、王妃様の意向らしい。
なんでも、王妃様は王宮に来て即王妃教育が始まったようで、何度も国王様との結婚を後悔して夜に泣いていたとか。そんな思いをさせたくないという優しさから、私にはこういった計らいを見せてくれた。王妃様からすると、やっとノア様がベティでない女性に目を向けたため、なんとしても逃してはならないという思いもあったようだ。この情報は、こっそりアルベルト様が教えてくれた。
「さてと。このエリアは一周したので、そろそろ休憩にしませんか? 歩き疲れたでしょう」
「そうね。言われてみれば……」
王宮の庭園はびっくりするほど広く、全体を簡単に周るだけでも半日はかかるという。一時間半かけてもひとつのエリアしか見られなかったことに驚きつつ、ふくらはぎや太ももには心地よい疲労感がのしかかっているのを感じる。きっと何度もここへ来たことがあろうベティに、申し訳ない気持ちになった。
「ではお茶にしましょうか。テラスでのんびり風にあたりながら、足を休ませましょう」
「いいわね。もちろん、ベティも座ってお茶に付き合ってもらうことが条件よ」
「もう。エルザ様ったら。……そうですね。周囲にほかの使用人がいなければ、遠慮なくそうさせていただきます」
ふふ、とベティが口元に手を当てて控えめに笑う。疲れているはずなのに表情にはひとつも出ていない。ベティも王宮侍女として、ここで散々もまれてきたのだろう。ちょっとやそっとでは疲れない体力を身に着けているのかも。私も見習わなくては。
「あ、ノア様だわ」
ベティと談笑しながらテラスに移動している途中、ベティが私よりも先にノア様がいることに気づく。視線を向ければ、ひとりで門のほうへ向かう様子のノア様が見られた。どこかへ出かけるのだろうか。
「……ねぇベティ、今日って何曜日だっけ」
学園へ通わなくなってからというものの、曜日感覚が曖昧になることがある。
「本日は水曜日でございます」
ベティの返答を聞いて、私はピンときた。
――ノア様、毎週水曜日のこの時間、いつもどこかへ出かけてる。それって多分……。
「ノア様、お出かけですか?」
私はベティにひとこと声をかけ、ノア様のもとへ向かって話しかける。
「ああ。水曜日は、神と精霊の庭の管理日だからな」
やっぱり思った通り。
幼い頃、同じことをノア様から聞いていた。どうやら今もノア様は水曜日に神と精霊の庭に通っているようだ。
「学園がある時は放課後寄っていたんだが、卒業してからは昔と同じ時間帯に戻したんだ」
「そうだったんですね」
少しでも疑問を抱きそうな点は、こちらが聞く前にノア様が説明してくれる。
……神と精霊の庭。その単語は、私をものすごくそそらせるものだ。院長先生に咎められてからは、一度もあそこに行けていないんだもの。
「……ノア様、私も同行したらダメでしょうか?」
久しぶりに行きたいという欲が抑えきれず、ダメ元で聞いてみる。ダメだと言われても、せめて手前までなら……なーんて。なんでもいいから、あの神聖で澄み渡る空気をもう一度浴びたいと思うのはわがままだろうか。
「うーん……まぁ、エルザなら構わないか」
「えっ! いいのですか」
「ああ。このまま一緒に行こうか」
ありがたいことに、すんなりと許可をもらえた。庭の入り口で待機させられる可能性もあるが、それでもいい。あの場所に行けるのなら。
……初めてノア様と出会った場所に今さら一緒に行くことになるなんて、不思議な縁だと思いつつ、私はノア様に同行し神と精霊の庭へと向かった。ベティとのお茶はまた今度になってしまったが、ベティにも『どうかノア様を優先してください。面倒なので』と言われたので、彼女はなにも気にしてはいないだろう。
「わぁ! 本当だ! ……それにしても、ベティに敬語を使われるのって変な気分」
「我慢してくださいませ。さすがに王宮の庭園でいつも通りにはいきませんわ」
王宮での生活にも慣れてきた頃。私はベティと庭園で散歩をしていた。今日は天気が良いので、外に出ようという話になったのだ。
てっきり、ノア様と結婚したらすぐ王妃教育が始まるのかと思っていたら、そういうわけでもなかった。ノア様が王位を継ぐにしても、それはまだ先のこと。まずは、私に王宮での生活を慣れさせることから始めようという、王妃様の意向らしい。
なんでも、王妃様は王宮に来て即王妃教育が始まったようで、何度も国王様との結婚を後悔して夜に泣いていたとか。そんな思いをさせたくないという優しさから、私にはこういった計らいを見せてくれた。王妃様からすると、やっとノア様がベティでない女性に目を向けたため、なんとしても逃してはならないという思いもあったようだ。この情報は、こっそりアルベルト様が教えてくれた。
「さてと。このエリアは一周したので、そろそろ休憩にしませんか? 歩き疲れたでしょう」
「そうね。言われてみれば……」
王宮の庭園はびっくりするほど広く、全体を簡単に周るだけでも半日はかかるという。一時間半かけてもひとつのエリアしか見られなかったことに驚きつつ、ふくらはぎや太ももには心地よい疲労感がのしかかっているのを感じる。きっと何度もここへ来たことがあろうベティに、申し訳ない気持ちになった。
「ではお茶にしましょうか。テラスでのんびり風にあたりながら、足を休ませましょう」
「いいわね。もちろん、ベティも座ってお茶に付き合ってもらうことが条件よ」
「もう。エルザ様ったら。……そうですね。周囲にほかの使用人がいなければ、遠慮なくそうさせていただきます」
ふふ、とベティが口元に手を当てて控えめに笑う。疲れているはずなのに表情にはひとつも出ていない。ベティも王宮侍女として、ここで散々もまれてきたのだろう。ちょっとやそっとでは疲れない体力を身に着けているのかも。私も見習わなくては。
「あ、ノア様だわ」
ベティと談笑しながらテラスに移動している途中、ベティが私よりも先にノア様がいることに気づく。視線を向ければ、ひとりで門のほうへ向かう様子のノア様が見られた。どこかへ出かけるのだろうか。
「……ねぇベティ、今日って何曜日だっけ」
学園へ通わなくなってからというものの、曜日感覚が曖昧になることがある。
「本日は水曜日でございます」
ベティの返答を聞いて、私はピンときた。
――ノア様、毎週水曜日のこの時間、いつもどこかへ出かけてる。それって多分……。
「ノア様、お出かけですか?」
私はベティにひとこと声をかけ、ノア様のもとへ向かって話しかける。
「ああ。水曜日は、神と精霊の庭の管理日だからな」
やっぱり思った通り。
幼い頃、同じことをノア様から聞いていた。どうやら今もノア様は水曜日に神と精霊の庭に通っているようだ。
「学園がある時は放課後寄っていたんだが、卒業してからは昔と同じ時間帯に戻したんだ」
「そうだったんですね」
少しでも疑問を抱きそうな点は、こちらが聞く前にノア様が説明してくれる。
……神と精霊の庭。その単語は、私をものすごくそそらせるものだ。院長先生に咎められてからは、一度もあそこに行けていないんだもの。
「……ノア様、私も同行したらダメでしょうか?」
久しぶりに行きたいという欲が抑えきれず、ダメ元で聞いてみる。ダメだと言われても、せめて手前までなら……なーんて。なんでもいいから、あの神聖で澄み渡る空気をもう一度浴びたいと思うのはわがままだろうか。
「うーん……まぁ、エルザなら構わないか」
「えっ! いいのですか」
「ああ。このまま一緒に行こうか」
ありがたいことに、すんなりと許可をもらえた。庭の入り口で待機させられる可能性もあるが、それでもいい。あの場所に行けるのなら。
……初めてノア様と出会った場所に今さら一緒に行くことになるなんて、不思議な縁だと思いつつ、私はノア様に同行し神と精霊の庭へと向かった。ベティとのお茶はまた今度になってしまったが、ベティにも『どうかノア様を優先してください。面倒なので』と言われたので、彼女はなにも気にしてはいないだろう。