結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
ノア様は人当りがよく、誰にでも優しい。いつ見ても穏やかな笑顔を浮かべている。……私を見る時以外は。
学園で同級生でもあった彼とは、この二年間顔を合わせる機会が多々あった。そんな中で、私だけは一度もノア様に微笑みかけられたことがない。どちらかというと、嫌そうな表情を浮かべていたのはよく覚えている。
――ノア様、よっぽど私のことが嫌いなんだろうなぁ。昔遊んだことも、きっと忘れてるわよね。
私がまだ孤児院で暮らしていた頃の話だ。
ローズリンドには、魔法や精霊が存在し、国の中心部には〝神と精霊の庭〟と呼ばれる神聖な場所がある。その名の通り、神と精霊が棲んでいる庭だ。
そこに立ち入れるのは、神と友人になりこの国を創ったといわれるディールス家の血を引く者、つまり王家の者しか入れないと言われていたのだが、幼い私はどうしても精霊を見たくて、こっそりひとりで遊びに行ったことがある。
中には入れないと思っていたが……どういうわけか、私は庭へ入ることができた。理由はわからないが、当時の私は〝ラッキー!〟くらいにしか思わなかった。
そしてその庭で会ったのが、幼き日のノア様だった。
今思えば、王家の血を引くノア様がいたから、庭へ入る結界が開かれていたのかも? と推測している。
ノア様は私を見て驚いていたが、追い返すこともしなかった。そのうち、私はノア様と他愛もない会話を交わすようになる。
『僕は毎週水曜日にここに来るんだ。だから、また話そう』
帰り際、ノア様は私にそう言ってくれた。孤児院以外で友達ができたことが嬉しくて、私は水曜日になると毎週孤児院を抜け出し、ノア様との密会を楽しんできた。しかし、そんな日々は長くは続かなかった。院長にバレてしまったのだ。
『王家の方と関わるなんて……エルザ、もしなにか無礼なことをしたら、あなたは不敬罪で罰を受けることになるのよ。ノア王子は、雲の上の人なの』
院長に言われて、私はノア様とは住む世界が違うのだとようやく気付いた。身分の差は大きく、もう二度と彼とあんな距離で会話をすることはないと思うと悲しかった。
……最後の密会で、ノア様に『将来結婚しよう』と言われたのは、今でも甘酸っぱい思い出だ。幼いながらに、すごくときめいてしまった。私にとっては懐かしい記憶でも、ノア様にとっては黒歴史に違いない。だからこんな話は、誰にも打ち明けてはいない。
その後、偶然にも伯爵家に引き取られ、学園でノア様と再会した時は素直に嬉しかった。でも、ノア様の様子は昔とすっかり変わっていた。あきらかに、私にだけ異様に冷たかった。
――私はノア様に嫌われている。
そう判断し、在学中はできるだけ距離を置いた。何故嫌われているのかわからなかったが、その理由は、まだループする前の最初の人生で訪れたこのパーティーで、ようやくあきらかになった。
「見て。ノア様ったら、またあの侍女を連れて退席してるわ」
近くの令嬢たちが、毎度おなじみの噂話を始める。
私がノア様に嫌われている理由……それは、ノア様が連れている専属の侍女が大きく関係していた。
ノア様の侍女は、とても美しい女性だ。学園にもたびたび連れてきているのを見たことがある。
よくふたりで一緒にいることから、貴族たちの間では『ノア王子がずっと婚約相手を決めないのは、あの侍女と禁断の恋を育んでいるからだ』と言われていた。
私はノア様の専属侍女を見るたびに、どこか懐かしさを覚えていた。そして後に、その懐かしさの正体に気づく。ノア様の専属侍女、ベティーナことベティは、私の孤児院時代の友人だったのだ。
さらに言えば、本来レーヴェ伯爵家の養子になると最初に言われていたのはベティだった。それがなぜか、直前に私に変更されたのだ。
元々私たちふたりで悩んでいるとは聞いていたが、ほぼベティが確定と言われていたため、ひどく驚いたことを覚えている。
学園で同級生でもあった彼とは、この二年間顔を合わせる機会が多々あった。そんな中で、私だけは一度もノア様に微笑みかけられたことがない。どちらかというと、嫌そうな表情を浮かべていたのはよく覚えている。
――ノア様、よっぽど私のことが嫌いなんだろうなぁ。昔遊んだことも、きっと忘れてるわよね。
私がまだ孤児院で暮らしていた頃の話だ。
ローズリンドには、魔法や精霊が存在し、国の中心部には〝神と精霊の庭〟と呼ばれる神聖な場所がある。その名の通り、神と精霊が棲んでいる庭だ。
そこに立ち入れるのは、神と友人になりこの国を創ったといわれるディールス家の血を引く者、つまり王家の者しか入れないと言われていたのだが、幼い私はどうしても精霊を見たくて、こっそりひとりで遊びに行ったことがある。
中には入れないと思っていたが……どういうわけか、私は庭へ入ることができた。理由はわからないが、当時の私は〝ラッキー!〟くらいにしか思わなかった。
そしてその庭で会ったのが、幼き日のノア様だった。
今思えば、王家の血を引くノア様がいたから、庭へ入る結界が開かれていたのかも? と推測している。
ノア様は私を見て驚いていたが、追い返すこともしなかった。そのうち、私はノア様と他愛もない会話を交わすようになる。
『僕は毎週水曜日にここに来るんだ。だから、また話そう』
帰り際、ノア様は私にそう言ってくれた。孤児院以外で友達ができたことが嬉しくて、私は水曜日になると毎週孤児院を抜け出し、ノア様との密会を楽しんできた。しかし、そんな日々は長くは続かなかった。院長にバレてしまったのだ。
『王家の方と関わるなんて……エルザ、もしなにか無礼なことをしたら、あなたは不敬罪で罰を受けることになるのよ。ノア王子は、雲の上の人なの』
院長に言われて、私はノア様とは住む世界が違うのだとようやく気付いた。身分の差は大きく、もう二度と彼とあんな距離で会話をすることはないと思うと悲しかった。
……最後の密会で、ノア様に『将来結婚しよう』と言われたのは、今でも甘酸っぱい思い出だ。幼いながらに、すごくときめいてしまった。私にとっては懐かしい記憶でも、ノア様にとっては黒歴史に違いない。だからこんな話は、誰にも打ち明けてはいない。
その後、偶然にも伯爵家に引き取られ、学園でノア様と再会した時は素直に嬉しかった。でも、ノア様の様子は昔とすっかり変わっていた。あきらかに、私にだけ異様に冷たかった。
――私はノア様に嫌われている。
そう判断し、在学中はできるだけ距離を置いた。何故嫌われているのかわからなかったが、その理由は、まだループする前の最初の人生で訪れたこのパーティーで、ようやくあきらかになった。
「見て。ノア様ったら、またあの侍女を連れて退席してるわ」
近くの令嬢たちが、毎度おなじみの噂話を始める。
私がノア様に嫌われている理由……それは、ノア様が連れている専属の侍女が大きく関係していた。
ノア様の侍女は、とても美しい女性だ。学園にもたびたび連れてきているのを見たことがある。
よくふたりで一緒にいることから、貴族たちの間では『ノア王子がずっと婚約相手を決めないのは、あの侍女と禁断の恋を育んでいるからだ』と言われていた。
私はノア様の専属侍女を見るたびに、どこか懐かしさを覚えていた。そして後に、その懐かしさの正体に気づく。ノア様の専属侍女、ベティーナことベティは、私の孤児院時代の友人だったのだ。
さらに言えば、本来レーヴェ伯爵家の養子になると最初に言われていたのはベティだった。それがなぜか、直前に私に変更されたのだ。
元々私たちふたりで悩んでいるとは聞いていたが、ほぼベティが確定と言われていたため、ひどく驚いたことを覚えている。