結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
夢の中
「確実にエルザちゃんはノアに気があるね」
「ええ! 私もそう思います!」
パーティー後、俺の部屋に自然と集まったベティーナとアルベルト。ふたりは盛大な祭りのようなパーティーの余韻を引き摺ったまま、興奮気味に俺に詰め寄った。
「そうか? べつにいつも通りだったと思うが」
ふたりに散々〝完全に脈あり〟だと言われ、内心俺も浮かれていたのは事実だ。しかし敢えて平然を装ってソファにどさりと腰掛けた。
「エルザちゃんがノアを見る目が、前と変わっていたよ」
「ノア様がほかの令嬢に挨拶されている時のエルザ、無意識に拗ねてて可愛かった……」
思い出すように、ベティが両手を頬にあててうっとりとしている。……エルザ、表情に出るほど拗ねていたのか。想像しただけで可愛い。くそ、俺も見たかった。話しかけてくる令嬢越しにエルザを見ていたが、さすがに位置によってはうまく見られない時もあったのが悔やまれる。
「やっぱりノアが素直になったのがよかったんだね。僕たちにも感謝してほしいな。なにかご褒美くれてもいいんじゃない?」
アルベルトがソファの背もたれに膝をつき、後ろから俺をからかうように覗き込んでくる。
「お前がエルザに触れたことは今でも許してない。よって褒美はなしだ。どうしても欲しいなら仕事の量を増やしてやろう」
「うわっ。まだ根に持ってる……ノアの執念深さは異常だな」
「ノア様はネチネチしていますからね。見た目からは想像できないほどに。まぁ、私は今日ノア様との変な噂が払拭されたので大満足です」
「……おいベティーナ、ところで君はこんなところで油を売っていていいのか。君はもうエルザの専属なんだぞ」
「エルザは疲れたようで、さっき寝てしまいました」
……今日は朝から準備で忙しかったからな。お披露目会ってこともあり、エルザも気を張っていたのだろう。ようやく肩の力が抜けて安心したのかもな。
「それでノア、もうエルザちゃんとキスくらいはしたの?」
「なっ……! なにを言うんだアルベルト……」
突然そんな話題を振られ、俺は驚き大声を出してしまった。
「だって、夫婦だよ? キスなんて恋人同士じゃなくてもするんだから、さすがにしただろ?」
「俺をお前みたいな軽い男と一緒にするな。俺はアルベルトのように女性自体が好きなわけではない。エルザが好きなだけだ」
「はいはい。それで、実際どうなんですか? エルザに聞いてもきっと恥ずかしがって教えてくれないだろうし……」
このままでは俺とアルベルトの口喧嘩に発展してしまうと思ったのか、ベティーナが俺を逃がさないと言わんばかりに話題を引き戻す。こいつらも所詮、ほかのやつらと同じで他人のあれこれが大好きなんだな……。悪趣味だ。
「……キスはした」
俺が答えると、ベティーナは両手で口元を押さえ、アルベルトはヒューと囃し立てるように口笛を吹く。
「手と、額に」
そのまま俺が続けて言うと、途端にふたりの表情が曇る。なんだその、期待外れみたいな顔つきは。
「ノア、冗談やめろよ? 普段、もういろんな経験してますみたいな澄ました顔して歩いてるくせに、唇にキスもできないってどういうことだよ。それでも男か?」
「黙れ。大体俺はそんな顔で歩いていない。それに……俺だって本当は……」
エルザにもっと触れたい。もっと近づきたい。何度も何度も、俺の愛が彼女に伝わるまでキスがしたい。だが――。
「怖いんだ。とまらなくなりそうで。エルザを大事にしたいのに、たまに彼女を俺の愛で壊してしまうのではないかと思う時がある」
なぜそんなことを思うのか、自分でもよくわからない。大事にしたいの裏に、壊れるほど愛したいという危険な欲が、俺の中にあるということなのか。
「エルザに嫌われたくない。彼女に嫌われたら俺は死ぬ」
「……ノアがこんなに重い男だって世間にもエルザちゃんにもバラしてやりたいよ」
アルベルトは呆れたようにやれやれと肩をすくめた。
「私としては、ノア様が慎重にエルザを大事にしてくれているのは、少し好感度が上がりました。ほんの少しだけ」
わざわざ語尾に付け足さなくてもいいのに。ベティーナは親指と人差し指の間に数ミリ程度の隙間を作って俺に見せつけてくる。そんな隙間程度の好感度ならべつに上がったところでなにも変わらないと思うが。
「あっ。そういえば、ノアに話したいことあったんだよね」
「なんだ? 俺のプライベートなことなら、これ以上はなにも答えないぞ」
腕と足を組んで、俺は横目でアルベルトを見た。
「いや、もう質問はしないさ。今日エルザちゃんが話していた男――ユベールだっけ。フランケ男爵家の」
「名前は知らないが……ふたりで立ち話をしていた男だよな?」
「そう。嫉妬にまみれたノアにエルザちゃんとの時間を邪魔された哀れな男だよ」
どこに哀れむ要素があるか不明だが、とりあえずよけいな口を挟まずに話を聞く。
「彼、爵位は高くないけど薬草の事業を成功させて、ものすごくお金を手にしてるんだ。そのへんの伯爵家より全然力はあると思う」
見た目的にまだ二十代前半くらいに見えたが――若くして事業を成功させたのは、なかなかやりてな男だと評価はする。それでも俺の足元にも及ばないが。
「資産も得て余裕が出たから、この前の王家主催のパーティーから結婚相手を探しているらしいよ。そこで彼が最初に目をかけていたのは……エルザちゃんって噂」
「エルザ? なんでだ。やはりあのふたり、関わりがあったのか?」
「いいや。単に、タイプだったんじゃない? 実際、この前のパーティーでユベールがエルザちゃんをずーっと見ていたらしいよ。彼が話しかける前に、エルザちゃんはノアとどっか行っちゃったみたいだけど」
「……それを俺に話した理由は?」
「あの時ノアが婚約を決めなければ、もしかするとエルザちゃんはユベールと結婚していたかもねって。そう思うと、エルザちゃんがノアに話しかけたのって奇跡だよねって改めて思ったんだ」
アルベルトにその話をされた瞬間、急に頭がずきりと痛む。同時に、ユベールとエルザがふたりで仲睦まじく話している様子を眺めている俺の記憶が蘇ってきた。……これはなんだ? こんな光景を見る前に、俺はふたりの邪魔をしに行ったはずなのに。いったいいつの記憶なのか。はたまた、俺の妄想なのか。
「ええ! 私もそう思います!」
パーティー後、俺の部屋に自然と集まったベティーナとアルベルト。ふたりは盛大な祭りのようなパーティーの余韻を引き摺ったまま、興奮気味に俺に詰め寄った。
「そうか? べつにいつも通りだったと思うが」
ふたりに散々〝完全に脈あり〟だと言われ、内心俺も浮かれていたのは事実だ。しかし敢えて平然を装ってソファにどさりと腰掛けた。
「エルザちゃんがノアを見る目が、前と変わっていたよ」
「ノア様がほかの令嬢に挨拶されている時のエルザ、無意識に拗ねてて可愛かった……」
思い出すように、ベティが両手を頬にあててうっとりとしている。……エルザ、表情に出るほど拗ねていたのか。想像しただけで可愛い。くそ、俺も見たかった。話しかけてくる令嬢越しにエルザを見ていたが、さすがに位置によってはうまく見られない時もあったのが悔やまれる。
「やっぱりノアが素直になったのがよかったんだね。僕たちにも感謝してほしいな。なにかご褒美くれてもいいんじゃない?」
アルベルトがソファの背もたれに膝をつき、後ろから俺をからかうように覗き込んでくる。
「お前がエルザに触れたことは今でも許してない。よって褒美はなしだ。どうしても欲しいなら仕事の量を増やしてやろう」
「うわっ。まだ根に持ってる……ノアの執念深さは異常だな」
「ノア様はネチネチしていますからね。見た目からは想像できないほどに。まぁ、私は今日ノア様との変な噂が払拭されたので大満足です」
「……おいベティーナ、ところで君はこんなところで油を売っていていいのか。君はもうエルザの専属なんだぞ」
「エルザは疲れたようで、さっき寝てしまいました」
……今日は朝から準備で忙しかったからな。お披露目会ってこともあり、エルザも気を張っていたのだろう。ようやく肩の力が抜けて安心したのかもな。
「それでノア、もうエルザちゃんとキスくらいはしたの?」
「なっ……! なにを言うんだアルベルト……」
突然そんな話題を振られ、俺は驚き大声を出してしまった。
「だって、夫婦だよ? キスなんて恋人同士じゃなくてもするんだから、さすがにしただろ?」
「俺をお前みたいな軽い男と一緒にするな。俺はアルベルトのように女性自体が好きなわけではない。エルザが好きなだけだ」
「はいはい。それで、実際どうなんですか? エルザに聞いてもきっと恥ずかしがって教えてくれないだろうし……」
このままでは俺とアルベルトの口喧嘩に発展してしまうと思ったのか、ベティーナが俺を逃がさないと言わんばかりに話題を引き戻す。こいつらも所詮、ほかのやつらと同じで他人のあれこれが大好きなんだな……。悪趣味だ。
「……キスはした」
俺が答えると、ベティーナは両手で口元を押さえ、アルベルトはヒューと囃し立てるように口笛を吹く。
「手と、額に」
そのまま俺が続けて言うと、途端にふたりの表情が曇る。なんだその、期待外れみたいな顔つきは。
「ノア、冗談やめろよ? 普段、もういろんな経験してますみたいな澄ました顔して歩いてるくせに、唇にキスもできないってどういうことだよ。それでも男か?」
「黙れ。大体俺はそんな顔で歩いていない。それに……俺だって本当は……」
エルザにもっと触れたい。もっと近づきたい。何度も何度も、俺の愛が彼女に伝わるまでキスがしたい。だが――。
「怖いんだ。とまらなくなりそうで。エルザを大事にしたいのに、たまに彼女を俺の愛で壊してしまうのではないかと思う時がある」
なぜそんなことを思うのか、自分でもよくわからない。大事にしたいの裏に、壊れるほど愛したいという危険な欲が、俺の中にあるということなのか。
「エルザに嫌われたくない。彼女に嫌われたら俺は死ぬ」
「……ノアがこんなに重い男だって世間にもエルザちゃんにもバラしてやりたいよ」
アルベルトは呆れたようにやれやれと肩をすくめた。
「私としては、ノア様が慎重にエルザを大事にしてくれているのは、少し好感度が上がりました。ほんの少しだけ」
わざわざ語尾に付け足さなくてもいいのに。ベティーナは親指と人差し指の間に数ミリ程度の隙間を作って俺に見せつけてくる。そんな隙間程度の好感度ならべつに上がったところでなにも変わらないと思うが。
「あっ。そういえば、ノアに話したいことあったんだよね」
「なんだ? 俺のプライベートなことなら、これ以上はなにも答えないぞ」
腕と足を組んで、俺は横目でアルベルトを見た。
「いや、もう質問はしないさ。今日エルザちゃんが話していた男――ユベールだっけ。フランケ男爵家の」
「名前は知らないが……ふたりで立ち話をしていた男だよな?」
「そう。嫉妬にまみれたノアにエルザちゃんとの時間を邪魔された哀れな男だよ」
どこに哀れむ要素があるか不明だが、とりあえずよけいな口を挟まずに話を聞く。
「彼、爵位は高くないけど薬草の事業を成功させて、ものすごくお金を手にしてるんだ。そのへんの伯爵家より全然力はあると思う」
見た目的にまだ二十代前半くらいに見えたが――若くして事業を成功させたのは、なかなかやりてな男だと評価はする。それでも俺の足元にも及ばないが。
「資産も得て余裕が出たから、この前の王家主催のパーティーから結婚相手を探しているらしいよ。そこで彼が最初に目をかけていたのは……エルザちゃんって噂」
「エルザ? なんでだ。やはりあのふたり、関わりがあったのか?」
「いいや。単に、タイプだったんじゃない? 実際、この前のパーティーでユベールがエルザちゃんをずーっと見ていたらしいよ。彼が話しかける前に、エルザちゃんはノアとどっか行っちゃったみたいだけど」
「……それを俺に話した理由は?」
「あの時ノアが婚約を決めなければ、もしかするとエルザちゃんはユベールと結婚していたかもねって。そう思うと、エルザちゃんがノアに話しかけたのって奇跡だよねって改めて思ったんだ」
アルベルトにその話をされた瞬間、急に頭がずきりと痛む。同時に、ユベールとエルザがふたりで仲睦まじく話している様子を眺めている俺の記憶が蘇ってきた。……これはなんだ? こんな光景を見る前に、俺はふたりの邪魔をしに行ったはずなのに。いったいいつの記憶なのか。はたまた、俺の妄想なのか。