結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
――それから俺は五日間、同じ夢を見続けた。
「ノア様、最近お疲れですか? パーティーが終わってから、顔色が悪いように見えますが……」
せっかくエルザとふたりで食事をしていても、エルザを手にかけた自分を思い出し、うまく笑えない。
「あ、ああ。たまっている仕事の処理に襲われて。心配させてすまない」
「いえ。ご無理なさらずに」
優しく微笑みかけてくれるエルザを見るたびに、俺がこの笑顔を壊すようなことをするわけがないと実感する。そうして安心すると、夜にまた、悪夢が俺を襲いにくる。
……そうだ。いっそ寝なきゃいい。
六日目の夜、連日の悪夢で頭がおかしくなりそうになった俺は、極端な答えにたどり着く。いつものように部屋の灯りを消しベッドに入るものの、目は開けたままでいた。
「エルザはノアを好きになっているはずなのに、どうしてなの!」
【しっ! ノアが起きるだろう。大きな声を出すな。ピアニー】
すると、突然部屋の奥から声が聞こえてきた。……あそこは、いつもリックが寝ている場所だ。なぜそこから声がするのか。それに、ピアニーだと……?
近づくとバレそうなため、俺は寝たふりを続けて耳をすます。
「だって、約束は守られたんじゃあないの? ふたりは幸せそうじゃない。リック様が解放されないなんておかしいわ」
【落ち着いて思い出せ。ノアの願いを。あいつは私に〝エルザの幸せ〟……詳しく言うと、〝自分がエルザを幸せにすること〟を願った】
えらく落ち着いた大人の男の声が聞こえる。初めて聞くはずなのに、懐かしい。自分の部屋から不審者の声が聞こえるというのに、なぜかこの声だとわかると安心している。……だけど、なぜこの声の主は、俺の願いを知っているんだ? 俺が幼い頃神と精霊の庭で、神様だけに願った秘密の話を。
【エルザはまだ、ノアの全部を知らない。それゆえに、ノアのすべてを好きになれない。ノアがエルザを幸せにするには、エルザにノアのしたことを知ってもらう必要がある。……これは俺の予想だが、エルザはたぶん、ループの記憶を引き継いでいる。なにが原因でそうなったかは不明だ】
「エルザが……!?」
【ああ。途中から、どうもエルザの行動はおかしいと感じていた。今回ノアと結ばれたのもただの奇跡なんかじゃあない。エルザ自身が起こしたのではないか。死のループを逃れるために】
「そ、そんな。じゃあ、エルザはノアと幸せになんて……」
【それはわからない。だがどちらにせよ、ノアがすべてを思い出し、エルザに伝える必要がある。そのノアをエルザが受け止めてくれれば――全部終わる】
……さっきから、なにを話しているんだ?
もはや、現在進行形で夢を見ているのではないかと勘繰ってしまう。
【残った力をお前に渡す。俺の時魔法とお前の夢魔法をかけ合わせて、ノアに過去のすべてを夢の中で教えるんだ。できるな? ピアニー】
「で、でも、もし失敗したら、もうリック様の力が……」
【放っておいても、このまままたループを繰り返せばいつかは滅ぶ。だったらこのチャンスに私は懸けたい】
「……わかりました」
会話の聞こえる場所から、小さな光の玉が飛んできた。逃げ出せばいいのに、足が動かない。というより、俺は動かしたくないのかもしれない。
これが夢でないのなら、知りたい。俺も知らない、俺の過去を。俺の全部を。それが悪夢への解決に繋がっている気がする。それに……幼き俺の、今になっても変わらぬ願いが叶えられるならば、俺はなんだってする。
光が俺の頭上までやって来ると、突然身体が温かくなった。そのまま気を失うように、俺は目を閉じた。
「ノア様、最近お疲れですか? パーティーが終わってから、顔色が悪いように見えますが……」
せっかくエルザとふたりで食事をしていても、エルザを手にかけた自分を思い出し、うまく笑えない。
「あ、ああ。たまっている仕事の処理に襲われて。心配させてすまない」
「いえ。ご無理なさらずに」
優しく微笑みかけてくれるエルザを見るたびに、俺がこの笑顔を壊すようなことをするわけがないと実感する。そうして安心すると、夜にまた、悪夢が俺を襲いにくる。
……そうだ。いっそ寝なきゃいい。
六日目の夜、連日の悪夢で頭がおかしくなりそうになった俺は、極端な答えにたどり着く。いつものように部屋の灯りを消しベッドに入るものの、目は開けたままでいた。
「エルザはノアを好きになっているはずなのに、どうしてなの!」
【しっ! ノアが起きるだろう。大きな声を出すな。ピアニー】
すると、突然部屋の奥から声が聞こえてきた。……あそこは、いつもリックが寝ている場所だ。なぜそこから声がするのか。それに、ピアニーだと……?
近づくとバレそうなため、俺は寝たふりを続けて耳をすます。
「だって、約束は守られたんじゃあないの? ふたりは幸せそうじゃない。リック様が解放されないなんておかしいわ」
【落ち着いて思い出せ。ノアの願いを。あいつは私に〝エルザの幸せ〟……詳しく言うと、〝自分がエルザを幸せにすること〟を願った】
えらく落ち着いた大人の男の声が聞こえる。初めて聞くはずなのに、懐かしい。自分の部屋から不審者の声が聞こえるというのに、なぜかこの声だとわかると安心している。……だけど、なぜこの声の主は、俺の願いを知っているんだ? 俺が幼い頃神と精霊の庭で、神様だけに願った秘密の話を。
【エルザはまだ、ノアの全部を知らない。それゆえに、ノアのすべてを好きになれない。ノアがエルザを幸せにするには、エルザにノアのしたことを知ってもらう必要がある。……これは俺の予想だが、エルザはたぶん、ループの記憶を引き継いでいる。なにが原因でそうなったかは不明だ】
「エルザが……!?」
【ああ。途中から、どうもエルザの行動はおかしいと感じていた。今回ノアと結ばれたのもただの奇跡なんかじゃあない。エルザ自身が起こしたのではないか。死のループを逃れるために】
「そ、そんな。じゃあ、エルザはノアと幸せになんて……」
【それはわからない。だがどちらにせよ、ノアがすべてを思い出し、エルザに伝える必要がある。そのノアをエルザが受け止めてくれれば――全部終わる】
……さっきから、なにを話しているんだ?
もはや、現在進行形で夢を見ているのではないかと勘繰ってしまう。
【残った力をお前に渡す。俺の時魔法とお前の夢魔法をかけ合わせて、ノアに過去のすべてを夢の中で教えるんだ。できるな? ピアニー】
「で、でも、もし失敗したら、もうリック様の力が……」
【放っておいても、このまままたループを繰り返せばいつかは滅ぶ。だったらこのチャンスに私は懸けたい】
「……わかりました」
会話の聞こえる場所から、小さな光の玉が飛んできた。逃げ出せばいいのに、足が動かない。というより、俺は動かしたくないのかもしれない。
これが夢でないのなら、知りたい。俺も知らない、俺の過去を。俺の全部を。それが悪夢への解決に繋がっている気がする。それに……幼き俺の、今になっても変わらぬ願いが叶えられるならば、俺はなんだってする。
光が俺の頭上までやって来ると、突然身体が温かくなった。そのまま気を失うように、俺は目を閉じた。