結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
幸せ
ノア様が突然、部屋に来た。日付が変わる数分前に。
どくんと打つ鼓動が、私に過去の記憶を思い出させる。もうループから抜け出したはずなのに、私はまた……ノア様に……?
「エルザ――今から君に、大事な話がしたい」
「……大事な話?」
「ああ。でも安心してくれ。……俺は今日、君を殺しにきたんじゃあない」
ノア様はついさっきまで見ていた夜空よりも綺麗な優美な笑みを浮かべてそう言った。
「えっ?」
おもわず、私は素っ頓狂な声を上げる。
今なんて? 殺しに? えっ?
「ノア様、覚えていたんですか?」
「……覚えていたというか、さっきやっと、強制的に思い出さされたって感じだな」
気まずそうに視線を泳がせながらも、ノア様の瞳は最後には必ず私のところへと戻ってくる。
――あ、瞳が死んでない。
私を殺しにくるノア様は、いつも濁った目の色をしていた。絶望的な顔をして、完全に闇に堕ちて行った人……そんなイメージだ。でも、今のノア様は違う。
「その様子だと、セドリックの言う通り君は記憶を引き継いでいるということか」
「セドリック?」
初めて聞く名前に首を傾げると、ノア様が「リックの本名だ」と教えてくれた。ノア様、リックが本当は魔獣だってことも知らなかったようだけど……それも思い出したのかしら。
「……ごめん。俺は、エルザにひどいことをしたな」
ひどいことと言われたら、そうだろう。ひどいでは済まされないかもしれない。なぜなら、命を奪われていたのだから。
「この手で俺は……君を、何度も……殺した」
唇をかみしめて、ノア様は両手をぐっと震えるほど握りしめる。
「それを知りながらも……君は俺と結婚し、今日までそばにいてくれた。その理由を聞きたくはあるがその前に、俺がなぜ君を殺したかを話すのが先だろう」
覚悟を決めた男の顔をしたノア様が、私をじっと見つめる。
そこから、ノア様は私がずっと気になっていた、〝私を殺すことになった理由〟を教えてくれた。
その中で――私はずっと、自らで封印していた記憶を思い出すこととなる。
まずノア様が最初に教えてくれたのは、私が最初の人生で悲惨な末路を辿っていたことだった。
それを聞いて、私はようやく、最初の人生の記憶を取り戻すこととなる。
……そうだ。私は悪い男に騙されて家族を売られた。日常的に暴力を受け衰弱していく身体は最後には水すら受け入れず、守るべき家族を自分のせいで失った現実に絶望し、精神は限界を迎えていた。
そんななか迎えた、人生最低最悪の結婚前夜。なぜか、ノア様が私のもとへ来てくれた。そこでノア様は私を……助けようとしてくれたんだ。
それなのに、私はノア様に最低なお願いをした。そのお願いを躊躇いながらも実行しようとしてくれた時、私はひどく安堵したのだ。やっと、この苦痛から解放されるのだと。そこで意識は途切れる。ノア様の話からすると、私はそこで殺される前に力尽きたのだろう。しかし、私は都合よく記憶を改ざんし、ノア様に剣を向けられたところだけを覚えていた。
最初の人生は、私にとっては忘れたい記憶だったから、都合の悪い部分はすべて心の奥底に封じ込んでいたのだろう。婚約者に家族を売り飛ばされたという記憶を思い出せば、確実に精神を崩壊させる。無意識に私は、忘れることで自分を守っていたのかもしれない。
そして、ノア様が私を失ったあとの話も――想像できないほど、凄まじいものだった。言葉を詰まらせながらも、必死にすべてを打ち明けてくれるノア様の話を聞いていると、自然と涙が溢れだす。
ノア様はずっと、私の幸せのために戦ってくれていた。運命が私の不幸を決定づけてからも諦めずに。
「どんな理由であれ、これは俺が勝手に始めたこと。俺のエゴに世界を巻き込んだ。そしてエルザに、何度も死の恐怖を植え付けてしまった」
「……たしかに怖かったですけど、不思議といつも痛みはなかったんです」
「それに関しては、俺がセドリックに頼んだんだ。せめてエルザに痛みは与えないようにって。代わりに発生した痛みはすべて俺が引き受けると」
「!? ってことは、ノア様は六回も死ぬほどの痛みを……」
「当然だ。君を救えなかった罰にしてはぬるすぎるくらいだ」
真面目な顔をして言っているが、どれほどの痛みかを想像するだけで顔が引きつる。ものすごい出血量だったし……かなりの痛みだったろう。
そんな痛みを受けてループをしても、ノア様は前世の記憶を覚えていないなんて……かなりのハードモードの中、ようやくここまでたどり着いたってことね。
「今世でエルザが俺に話しかけてくれていなかったら、どうなっていたか。今があるのは全部エルザのおかげだ」
ノア様は記憶がないぶん、動きに大きな変化を生み出すことができなかった。逆に私は記憶があったから、いろいろと前世とは違う行動に出られた。
「それは違いますよ。ノア様。あなたがいなければ、私の人生はとっくに終わっていた。家族と笑い合うことも、ベティとまた友達になることも……ノア様と幼き日の思い出を語り合うことも叶わなかった」
私が人生をやり直せたのも、ふたりでループを抜け出せたのも、互いの力があったからこそ生まれた結果だと思う。
どくんと打つ鼓動が、私に過去の記憶を思い出させる。もうループから抜け出したはずなのに、私はまた……ノア様に……?
「エルザ――今から君に、大事な話がしたい」
「……大事な話?」
「ああ。でも安心してくれ。……俺は今日、君を殺しにきたんじゃあない」
ノア様はついさっきまで見ていた夜空よりも綺麗な優美な笑みを浮かべてそう言った。
「えっ?」
おもわず、私は素っ頓狂な声を上げる。
今なんて? 殺しに? えっ?
「ノア様、覚えていたんですか?」
「……覚えていたというか、さっきやっと、強制的に思い出さされたって感じだな」
気まずそうに視線を泳がせながらも、ノア様の瞳は最後には必ず私のところへと戻ってくる。
――あ、瞳が死んでない。
私を殺しにくるノア様は、いつも濁った目の色をしていた。絶望的な顔をして、完全に闇に堕ちて行った人……そんなイメージだ。でも、今のノア様は違う。
「その様子だと、セドリックの言う通り君は記憶を引き継いでいるということか」
「セドリック?」
初めて聞く名前に首を傾げると、ノア様が「リックの本名だ」と教えてくれた。ノア様、リックが本当は魔獣だってことも知らなかったようだけど……それも思い出したのかしら。
「……ごめん。俺は、エルザにひどいことをしたな」
ひどいことと言われたら、そうだろう。ひどいでは済まされないかもしれない。なぜなら、命を奪われていたのだから。
「この手で俺は……君を、何度も……殺した」
唇をかみしめて、ノア様は両手をぐっと震えるほど握りしめる。
「それを知りながらも……君は俺と結婚し、今日までそばにいてくれた。その理由を聞きたくはあるがその前に、俺がなぜ君を殺したかを話すのが先だろう」
覚悟を決めた男の顔をしたノア様が、私をじっと見つめる。
そこから、ノア様は私がずっと気になっていた、〝私を殺すことになった理由〟を教えてくれた。
その中で――私はずっと、自らで封印していた記憶を思い出すこととなる。
まずノア様が最初に教えてくれたのは、私が最初の人生で悲惨な末路を辿っていたことだった。
それを聞いて、私はようやく、最初の人生の記憶を取り戻すこととなる。
……そうだ。私は悪い男に騙されて家族を売られた。日常的に暴力を受け衰弱していく身体は最後には水すら受け入れず、守るべき家族を自分のせいで失った現実に絶望し、精神は限界を迎えていた。
そんななか迎えた、人生最低最悪の結婚前夜。なぜか、ノア様が私のもとへ来てくれた。そこでノア様は私を……助けようとしてくれたんだ。
それなのに、私はノア様に最低なお願いをした。そのお願いを躊躇いながらも実行しようとしてくれた時、私はひどく安堵したのだ。やっと、この苦痛から解放されるのだと。そこで意識は途切れる。ノア様の話からすると、私はそこで殺される前に力尽きたのだろう。しかし、私は都合よく記憶を改ざんし、ノア様に剣を向けられたところだけを覚えていた。
最初の人生は、私にとっては忘れたい記憶だったから、都合の悪い部分はすべて心の奥底に封じ込んでいたのだろう。婚約者に家族を売り飛ばされたという記憶を思い出せば、確実に精神を崩壊させる。無意識に私は、忘れることで自分を守っていたのかもしれない。
そして、ノア様が私を失ったあとの話も――想像できないほど、凄まじいものだった。言葉を詰まらせながらも、必死にすべてを打ち明けてくれるノア様の話を聞いていると、自然と涙が溢れだす。
ノア様はずっと、私の幸せのために戦ってくれていた。運命が私の不幸を決定づけてからも諦めずに。
「どんな理由であれ、これは俺が勝手に始めたこと。俺のエゴに世界を巻き込んだ。そしてエルザに、何度も死の恐怖を植え付けてしまった」
「……たしかに怖かったですけど、不思議といつも痛みはなかったんです」
「それに関しては、俺がセドリックに頼んだんだ。せめてエルザに痛みは与えないようにって。代わりに発生した痛みはすべて俺が引き受けると」
「!? ってことは、ノア様は六回も死ぬほどの痛みを……」
「当然だ。君を救えなかった罰にしてはぬるすぎるくらいだ」
真面目な顔をして言っているが、どれほどの痛みかを想像するだけで顔が引きつる。ものすごい出血量だったし……かなりの痛みだったろう。
そんな痛みを受けてループをしても、ノア様は前世の記憶を覚えていないなんて……かなりのハードモードの中、ようやくここまでたどり着いたってことね。
「今世でエルザが俺に話しかけてくれていなかったら、どうなっていたか。今があるのは全部エルザのおかげだ」
ノア様は記憶がないぶん、動きに大きな変化を生み出すことができなかった。逆に私は記憶があったから、いろいろと前世とは違う行動に出られた。
「それは違いますよ。ノア様。あなたがいなければ、私の人生はとっくに終わっていた。家族と笑い合うことも、ベティとまた友達になることも……ノア様と幼き日の思い出を語り合うことも叶わなかった」
私が人生をやり直せたのも、ふたりでループを抜け出せたのも、互いの力があったからこそ生まれた結果だと思う。