結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~

エピローグ

「たいへんだたいへんだたいへんだーっ!」
 部屋の外から騒がしい声が聞こえて目が覚める。カーテンを開けたまま寝たせいか朝の陽ざしが眩しい。
 その時、身体に違和感を覚えてはっとする。私の身体にぴたりとなにかが密着しているこの感じと、お腹にある大きな男の人の両手……。
 ――そうだ。私、ノア様と一緒に寝たんだ。
 特になにかをしたわけではなく、添い寝をしただけ。それでもじゅうぶん顔が熱くなる理由としてはじゅうぶんだった。こっそりと様子を窺うも、ノア様はまだすやすやと寝ている。最近あまり顔色が優れていなかったし、ベティからノア様が寝不足だというのも聞いていた。過去の記憶を取り戻して、リックとの長い長い契約も終わり、やっとノア様にも平穏が訪れた。安心で熟睡できたのかも。
「ベティーナ、部屋にノアがいないんだ。緊急事態なんだけどどこにいるか知らない?」
「ノア様ならこちらの部屋にいらっしゃいますよ。そのため、お目覚めになるまで勝手に中にはアルベルト様であっても入れられません」
「緊急事態って言ってるだろう!」
 ……扉の向こう側から、ベティとアルベルト様の声が聞こえる。というか、どうしてベティにノア様といることがバレてるんだろう。それに緊急事態って?
「……騒がしいな」
 すると、ノア様もさすがに目が覚めたようで、私の背後で声を上げる。
「ノア様、お目覚めですか?」
「ああ……でも、もうちょっと……」
 ノア様はまだ完全に覚醒していないようで、寝ぼけまなこで再度私の身体をぐっと自分のほうへ引き寄せるとまた眠る体勢に入ろうとしている。
「ノア様っ、アルベルト様が緊急事態って……」
「そんなのいい……まだ、エルザとこうしていたい……」
「で、でも……」
「目覚めて最初に見える景色に君がいるなんて、幸せすぎる……」
 この幸せを終わらせたくないというように、ノア様は私の肩に顎を乗せて甘えるように頬を擦り寄せてくる。おかげで密着度も高まり、私は完全に動けなくなってしまった。
「おい起きるんだノア! そんでもってすぐ表に出てくれ!」
「ああっ! 入ってはダメだと言ったのに!」
 ノア様の腕の中に包まれながらどうしようと思っていると、扉が大胆に開かれる音がした。同時にアルベルト様の叫び声と、追いかけるようにベテの声も聞こえてきた。
「……なんだ? アルベルト」
 凄むようなノア様の声が聞こえる。アルベルト様が入って来たというのに、ノア様は一向に私を離そうとはしない。一緒にくっついて寝ているところを見られていると思うと穴があるなら入りたい。私はテディベアのライトブランの毛をガン見しながら、できるだけ後ろを振り向かないようにする。
「ノア、どれだけ声色でかっこつけてもその状態じゃあなにも怖くないぞ」
 呆れたようなアルベルト様の声が聞こえる。
「お前、朝からなんなんだ。うるさいぞ」
「邪魔したのは謝る。でもさっきから言ってるだろ。緊急なんだって。……王宮の門の前に、フリーダを筆頭にノアの結婚を白紙に戻せというわけのわからない団体が押し寄せてるんだよ」
「……なんだと?」
 さすがのノア様も詳細を聞くと、やっと私から腕を離して上体を起こした。私もつられるようにもぞもぞと起き上がる。
「あ、よかった。ふたりともちゃんと服着てるんだね」
 毛布から体を出した私たちを見て、アルベルト様がほっとした口調で言った。
「当たり前ですっ!」
 いったいアルベルト様はなにを想像していたのか。私が焦って言い返すと、ノア様が「エルザをからかうな」とアルベルト様を叱ってくれた。
「じゃあすぐに着替えて表に来てくれる? まったく、朝からあいつらのせいで手を怪我して最悪だよ。あんまりすごい勢いで押し寄せてくるから、服の装飾品にあたって擦りむいたんだ」
 アルベルト様は手の甲の切り傷を眺めながら言うと、ため息をついて肩を落とした。
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