結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~
 それから三日ほどは、怒涛の日々だった。
 傷を実際に治したことで、私は聖女として認められ、当然聖女が相手となれば誰も文句を言うことはない。
 なぜならノア様が言っていたように、聖女と王家の結婚は国が何百年も前から定めたしきたりだからだ。これにはフリーダ様も反論できず――結果、トイフェル侯爵家と王家のトラブルはあっけなく幕を引いた。だけども、私が聖女でなければここまでスムーズに事が運ぶことはなかっただろう。
 これも全部、リックが私に力を与えてくれたおかげだ。リックが言っていた〝ノア様にとってもこれはいいこと〟である理由がこの一件でわかった気がする。こうやって結婚を反対する声が上がった時に、今回のように国にとって重要な資源を取引に持ち掛けられては厄介だ。だが、私には彼女たちを黙らせる身分も特別な力もなかった。それで私とノア様の結婚がなくなる――なんてことがあれば、ようやくここまできたのにまたノア様が暴走を起こす可能性があるとリックは懸念したのかもしれない。
 それか……ただ、ノア様が私といられるようにという、リックの粋な計らいかも? 真実はわからないが、どちらにせよ、リックはこうなることを見越していたのだと思う。
 ローズリンドにとって実に二百年ぶりとなった聖女誕生は、私がノア様と結婚した時よりも国中を騒がせた。
 三日三晩ほぼお祭りのような状態は続き、私はあらゆる人々から祝福を受けながら、聖女として国に仕えることとなった。家族は喜んでくれ、孤児院の院長先生とも久しぶりに会うことができた。お金のない孤児や、病院の少ない田舎町を優先に、私は今後しばらくは怪我の治癒を中心にこなすこととなる。もちろん、王妃教育もしっかりやりこなさなくてはならない。たいへんにはなるが、周囲のサポートもあるため頑張れる気がする。

「ねぇエルザ。考え直してよ。ノアといたら、エルザはいつか限界がくるわ。だってノアって束縛すごいし、面倒だし、世界滅ぼそうとするし、いいとこないでしょう?」
 聖女になった私はある日、執務で忙しいノア様の代わりに神と精霊の庭の様子を見に来ていた。そこでピアニーとリックとおしゃべりを楽しむ。
 神様であるリックが戻ってきたことで、庭は以前より活気づいていた。なんとなく、木々や花、そしてこの庭に吹く風すら、それぞれ楽しげに揺れているように見える。
「またそんなこと言って。ノア様は優しい人よ」
「もう~~エルザがそんなだから、男運が悪いって言われるのよ!」
 ピアニーにまで男運のことを指摘されてしまった……。
【過去エルザと婚約をしたろくでもない男たちは、みんな悪事を暴かれたようだな】
「! そうなの。記憶の戻ったノア様がすぐ部下たちに調べさせたみたい。被害者が出なくてよかったわ」
【エルザが命を張って暴いた闇でもある。ご苦労だったな】
 私はうまい話に乗らされて、勝手に騙されただけだが、それを褒めてくれるリックは優しい。後から聞いた話だが、レーヴェ伯爵家が没落危機にあり私が婚活を焦っているという話が、あの運命を決める卒業後のパーティーで出回っていたようだ。
 だからそもそも私に声をかけてきた人たちは、みんな最初からなにかしら私を利用する目的で近づいたのだろう。私が騙しやすい環境にあることを知っていたから、敢えて狙ったのだ。
【本来不幸に死ぬはずだったエルザの運命を、無理矢理時を戻して変えようとしたから、この世界がお前にろくでもない男をよこしていたのかもな】
「そうに決まってる! ま、ノアがいちばんろくでもないけど!」
【だが、ノアと一緒になることでエルザの不幸は絶たれた。ろくでもないにも種類があるということだ。わかるか? ピアニー】
「ぜんっぜん!」
 潔い返事に、私とリックは顔を見合わせて苦笑する。ピアニーの場合、理解する気すらなさそうだ。
 庭から帰ると、私は部屋へと戻った。
 今日は朝早くから孤児院へ足を運んだりと移動が多かったため、まだ晩餐前というのに眠気に襲われる。
 ……少し仮眠するくらいいいわよね。
 ワンピースのままベッドに寝ころび、毛布もかけないまま眠りにつく。すると突然、何者かが覆いかぶさってきた。
「誰!?」
 気配を感じ目を開けると、さっきまで明るかった部屋がすっかり暗くなっている。どうやら私は陽が沈んでなお寝続けていたようだ。
「ああ。バレてしまった。せっかく夜這いにきたのに」
 暗い視界の中、意地悪な笑みを浮かべるノア様の顔が見える。
「ノア様!? な、なにしてるんですか。退いてください」
「晩餐の時間になっても君が来ないから、ベティーナの代わりに様子を見に来たんだ。そうしたら愛らしい寝顔を見つけたから……襲わずにはいられないだろう」
 どういう理由なのかさっぱりわからない。普通に起こしてくれればよかったのではないか。
「それに、忠告していたはずだ。待つのには限界があると」
「だとしても今は晩餐前で……っ!」
 ノア様は話している途中で、黙らせるように唇を塞いでくる。いつも私にはとびきり甘くて優しいノア様に、たまにこういった強引さを出されると――最近は、正直なところきゅんとしてしまうのが事実だ。
 いつもより長めのキスが終わり、唇を離すとノア様から甘い吐息が漏れる。いつもはここで終わるのだが、今日はどういうわけか、ノア様がなかなか引いてくれない。
 再度唇にキスされると、次は唇の端。そのまま顎、首、鎖骨へと……下へ下がるように何度も唇を這わされて、私はさすがにこのままはまずいと思いノア様を制止する。
「こ、これ以上は心臓が持ちません!」
 ドキドキしすぎて心臓が破裂する。別の意味で、ノア様に殺されそうだ。
「……ずるいな。エルザにそう言われたら、これ以上なにもできない」
 そう言いながらも、私に止められるのを予想していたかのようにノア様は小さく笑う。
私もノア様を我慢させているのはわかっているからこそ、たまにこの優しさを見せられると罪悪感に苛まれる。
 ……そうだ。今日は、私から言ってみよう。
 私は今世、ノア様に幸せにしてもらう人生だと思っていたが、よくよく考えれば、幸せというのは自分で生み出すものでもあり、相手にも与えるものだ。私が幸せになる未来をノア様が強く望んでくれたのと同じくらい、私もノア様には幸せになってほしい。
 私の些細な行動がそのお手伝いになるかはわからないが、私は少し勇気を出して、下から手を伸ばしてノア様を自分のほうへ引き寄せる。
「……ノア様、好き」
 いつもノア様が当たり前のように伝えてくれた〝好き〟って言葉を口にするのが、こんなに恥ずかしいとは思わなかった。
 ノア様は目を丸くして、そのあと私を見つめて柔らかに顔を綻ばせる。
「君に好きって言われて、生まれて初めて、幸せすぎて死んでもいいって思った」
「ふふ。だめですよ。ノア様がいなくなったら困ります」
 冗談交じりに返すと、ノア様もふっと笑う。
「ああ……幸せだなぁ」
まだ少し明るさの残る夜の闇の中、微笑む彼がぽつりと発したその声が、私の心の声と重なった。

End

お読みいただきありがとうございました!
さらに読み応えのアップした&番外編の読める書籍版もよろしくお願いいたします!(改稿頑張りました!(笑))

< 54 / 54 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:56

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

表紙を見る
地味で無能な次女なので、私のことは忘れてください
  • 書籍化作品

総文字数/81,628

ファンタジー15ページ

表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop