結婚前夜に殺されて人生8回目、今世は王太子の執着溺愛ルートに入りました!?~没落回避したいドン底令嬢が最愛妃になるまで~

結婚しよう

 びっくりして固まるノア様に、とにかくにこにこと笑いかける私。ノア様も、私から話しかけてくるなど予想外だったのか。
「わ、私は失礼します! どうぞあとはごゆっくり!」
 隣にいたベティは大きな声でそう言うと、その場から走り去ってしまった。
 ……まずいわ。ノア様を横取りしたみたいになっちゃった。あとでベティともゆっくり話す機会を設けられたらいいのだけれど。
「……あっちで話そうか」
「え?」
「俺と話すんじゃあなかったのか?」
 てっきり高確率で断られると思っていたため、承諾してもらえたことに驚く。
「は、はい! 話したいですっ!」
「……じゃあ行こう」
「はい!」
 テンション高めに返事をする私を見て、ノア様はクールにふいっと顔を背ける。そしてスタスタと足早に歩き始めた。
 こんな展開は初めてのことだ。周囲からの視線が突き刺さって痛い。
 どこへ向かっているのかわからないままとりあえず後をついていくと、ひとけのないテラスに到着した。
――ま、まさかここで私を殺すなんて暴挙にはさすがに出ないわよね!?
 ノア様と暗がりにふたりきりというシチュエーションは、私に死を連想させる。とてつもない緊張感の中、先に口を開いたのはノア様だった。
「……今日は、いい天気だな」
 突然天気の話をされ、私は拍子抜けする。
「え? は、はい。そうですね」
「本当に、ものすごい青空で、雲もゆっくりと流れて……」
「……えーっと、たしかに昼間はそうでしたね。今は星が綺麗です」
「! そうだな。今は夜だったな」
 ……ノア様? 
 昼と夜を素で間違えるなんて、完璧王子のノア様がするだろうか。そんなはずないわよね……。ていうか、今の会話はいったいなんだったの。
 まさかノア様と天気の話をする日が来るとは思わなくて、おもわず笑みが零れる。
「ふふっ。ノア様は、晴れの日がお好きなのですか?」
「あ、ああ。雨よりはいい」
 なんて単純な理由。面白くてさっきまで抱いていた緊張が、一瞬にして解けていく。
 こんなに普通に会話をしてくれるなら、勇気を持ってもっと早く話しかけてみたらよかった。
「はぁ。なんだか安心しました」
「安心?」
「はい。ノア様とこうやってお話できて」
 死ぬほど嫌われていると思い込んでいたため、普通に接してもらえただけでもほっとする。
「……君は、俺とずっと話したいと思っていたのか?」
「……そうですね。でも、話しかける勇気がなくて。私、ノア様にすっごく嫌われている自覚がありますから」
 それもこれも、在学中にノア様が私を睨み続けたせいでもある。が、ベティとの事情を知ってしまった今、そこを責める気にもなれない。
「…………嫌い?」
 ためにためて、ノア様が心底驚いた顔で私のほうを見た。
「誰が、誰を?」
「ノ、ノア様が、私を」
「嫌い?」
「はい」
 どこまで細かく言わされるのか。私を嫌いという事実は、ノア様がいちばんわかっているだろうに。
 ノア様はなぜか右手を額にあてて天を仰いでいる。……どうしたんだろう?
 しばらくそうしたあと、ノア様は身体ごと私のほうを向いて言う。
「エルザ、俺は君を嫌ってなんかない」
「……えぇっ!?」
 それは何度も何度もループした中でもあまりに衝撃的な言葉だった。ノア様が私を嫌いじゃない? そんなわけない。だったら、なぜあんなに執念深く私の結婚前夜に私を殺しにきたのか説明がつかない。
 ……それとも、この時点の私のことはそこまで嫌っていなかったのだろうか。結婚が決まったから、憎悪が爆発したとか?
 大いに有り得る。大体、ノア様も馬鹿ではない。ここで私に本心を悟られるような真似はしないはずだ。単に私への気遣いの可能性も否めない。とにかく、この言葉を真に受けて油断するのだけはやめておこう。
「なぜそんなに驚くんだ?」
「い、いえ。嫌われていると思い込んでいたので。ほら、ノア様って私を見る目が冷たかったから~……」
「? そんなことないと思うけど」
 本当に思い当る節がないのか、ノア様は真面目な顔をして首を傾げた。
「むしろ――いや、なんでもない」
 ノア様はそのままなにかを言いかけて、はっとしてやめる。嫌いという本音が出そうになったのを慌てて隠したのだろうか。
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