恋の罠は酷く切ないけど甘い

しかし、今となってはどうでもいい。

淡い恋心を持っていた彼のあの軽蔑した瞳と、あの時、何人もに抑えられた感触を思い出したくない。
過去と決別して、ひとりで生きてきた今、もう関わりたくないというのが本音だ。

でも、どうして私がこの会社にいることがわかったのだろうか。
そんな疑問が沸き上がったが、あの人たちならば、探偵でも雇ってでも目的は達成しそうだ。

迷惑をかけるわけにはいかない。
覚悟を決めて通話ボタンを押して数コール待つが、応答はない。
この時間は確かに旅館が忙しい時間帯で、みんなで払っているのかもしれない。

かなり安堵した自分に気づきながら、膝の腕で手を組み、そこに額をのせて目を閉じる。
仕事に戻らなければ。なんとか気持ちを整えようとする。


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