恋の罠は酷く切ないけど甘い
「志波、ここにいたのか」

その明るい声音に私は顔を上げた。
そこにいたのは代表で薄い笑みを浮かべている。
身長は高いが、細身の体形、そして男性にしては長めのブラウンの髪が、中世的な魅力を放っている。大学時代よりさらに魅力が増した気がする。

「どうした? お前」
付き合いが長いと、すぐに私の異変に気付く彼に嫌になってしまうが、もはや隠しても仕方がないと苦笑しつつ口を開く。

「実家から電話があったんです」
「え? 今更か?」
代表はかなり怪訝な表情を浮かべている。すべてを話したわけではないが、研究室もゼミも同じだった関係でバイトばかりしていた私を気にかけてくれていた彼には、ある程度のことは話してあった。

「はい。折り返したら繋がらなかったんですけど。それにしても探偵でも雇ったんですかね」
ため息交じりになんとなく言葉を紡ぐと、代表は「違うかもな」そう呟いた。
「え?」
「あの雑誌じゃないか?」
始めは彼の言っている意味が解らなかったが、「ほら、俺の取材」そう言われ、その可能性に思い当たる。

代表が賞を取った時のプロジェクトメンバーに一応私も入っていた。メインではないが、確かに授賞式にも参加したし、一緒にインタビューも受けたが……。
あの人たちが建築雑誌など見るだろうか。
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