恋の罠は酷く切ないけど甘い
「我が事務所としても絶対に成功させなければいけない」
「そうですね。それで私に話というのは?」
確かに私もそれなりに経験を積んできたが、事務所にはたくさんの優秀な人がいるし、代表の右腕には、副所長のマイクさんがいる。
「俺の第一補佐を頼みたい」
「どうして私が? プロジェクトの一員ならわかりますが」
藤本彰斗がかかわってなければ、これは私にとってもビッグチャンスだし、ぜひやりたい仕事だ。
でも、私だけが引きずってるだろうが、できれば藤本先輩とは会いたくない。
そこまで思って私はキュッと唇を噛んだ。たったあれだけの一瞬のできごとなど、彼にとっては人生の記憶にもなってないはずだ。
何万人といる社員を持つテイラーキャセルグループの御曹司が私なんか覚えているはずがない。
実家からの電話も、この仕事もただの偶然に過ぎない。自分にそう言い聞かせる。