恋の罠は酷く切ないけど甘い
「リゾート施設と言えば、女性の感性、意見が重要だ。ずっと見てきて、志波が適任だと俺が判断した」
代表に認められるということは、本当に嬉しいし、私のこれからのキャリアに役に立つはずだ。
藤本彰斗が私を覚えているはずはない。
「やらせてください」
頭を下げると、代表は「よろしく頼む」そう言ってくれた。
それからなぜか、実家から電話がかかってくることはなかった。
なんだったのだろうか。そう思うが、今日はテイラーとの初めての打ち合わせの日だ。
今は仕事のことだけを考えなければいけない。
そう思いつつ、私はバッグに資料を詰めた。
「志波、行けるか?」
いつもモード調の全身ブラックコーデの代表だが、今日は細身のスリーピースだ。
「似合ってますね」
緊張を悟られないように、そう言うと「当たり前だろ」そう彼は笑った。
もし、藤本彰斗がいたとしても、私になど気づかない。
だから大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
しかし……。
「久しぶりだね」
それは彼のひとことで一瞬で終わりを告げた。