恋の罠は酷く切ないけど甘い
「だからと言って俺は妥協しないけどな。彼が天才だろうとなんだろうと」
少しだけ沈んでしまった私だったが、プライドを持った代表らしい言葉に、私はクスっと笑ってしまう。

「そうですね、代表は代表ですよ。藤本社長はデザインのプロじゃないですし、私は代表も天才だと思ってます」
そう言い切った私に、彼は穏やかな笑みを見せた。

「志波はさ、いつも笑っていたらいいのに。そしたら男も見つかるぞ」
昔から言われているその言葉に、私はつい彼を睨みつけた。

「せっかく褒めたのに。別に必要ないって言ってますよね? 私は仕事があればいいんです」
この返しも何度目か記憶にない。私自身、藤本彰斗を引きずっているわけではないが、学業にバイト、就職してからは仕事と、生きることに精一杯だったのだ。
誓ってあの淡い初恋の、酷く切なかった思いは関係ない。


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