恋の罠は酷く切ないけど甘い
目の前に広がったのは明るくモダンな広い社長室。
都内を見下ろせる大きな窓からは、明るい陽射しが差し込んでいた。
ナチュラルな色味のインテリアに、たくさんの洋書がならび、そこにはテラリウムがいくつか飾られている。
そして、部屋の中央にはヴィヴィットなオレンジ色のソファに、ガラスのテーブルが置かれていた。
おしゃれなカフェのような、書店のような雰囲気すらあるその場所に、もっとかしこまった、部屋を想像していた私は少しその部屋を見回してしまう。

ガラス窓からの日陽射しで、奥の方が見えていなかったのだが、目が慣れてきてそちらを見ると、大きなデスクに座るひとりの男性。

「お二人とも、ようこそお越しくださいました」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
逆光で顔がはっきり見えなかった私だったが、その声に聞き覚えがありすぎた。
ゆっくりと立ち上がり、こちらへ歩いてくるその人。
代表とのやり取りを聞きながら、私はごくりと唾液を呑み込んだ。
真っすぐに彼の顔を見なければ、仕事なのだからと言い聞かすが、つい視線が下をむいてしまう。

しかし、次の瞬間、かなり近い位置から聞こえたセリフに私は耳を疑った。

「月城さん、久しぶりだね」

今なんて言った?
完全に私は動きが止まってしまった。

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