恋の罠は酷く切ないけど甘い

しかし、すぐに二人はにこやかな笑みを浮かべた。
「そうでしたか」
「ええ、なので仕事もしやすいと思います」
今度こそありえないその藤本社長の言葉に、私は言葉がでない。

「それでも一応ごあいさつを」
代表にそう促され、私は名刺を取り出して彼に向き直る。その手が震えてしまってどうしようとした瞬間、彼が名刺をとろうと手を伸ばした。
その時に少しだけ触れた指に、私は反射的に手を引っ込めていた。

その態度に代表が、。助け船を出すように苦笑しつつ口を開く。
「申し訳ありません。うちの月城ですが、少し男性が苦手なところがありまして」
そう伝えると、所長が私を庇うように前に出て、渡せなかった名刺を藤本社長に渡す。
「そうなんですか?」
その声音にビクッと肩が揺れる。あの時の彼の蔑んだ瞳が脳裏に過ってしまったからだ。
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